約 1,012,623 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6364.html
前ページ次ページ重攻の使い魔 第1話 『赤き人形』 透き通ったさわやかな青空の下、トリステイン魔法学院の校庭では本日幾度目かの爆発が起きていた。爆発の原因となっていると思われる少女は諦めずに再度声を張り上げる。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン! 我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」 必死になるルイズとは裏腹に、周囲にいる生徒達の反応は心底冷ややかなものだった。ルイズを指差しこそこそと笑う者、悪意を隠そうともせずに侮辱する者、どうでもいいとばかりに文句を言う者。この場にルイズの味方はおらず、彼女は孤独だった。 ルイズの必死の思いを裏切るようにまたしても魔法は失敗、爆発し周囲は灰色の煙に包まれる。今までの爆発に比べて一際大きな爆発だった。油断していたために煙を吸い込み、咳き込む生徒達からは抗議の声が聞こえてくる。 「いい加減にしろよ! 失敗するのはいいけど俺達を巻き込むな!」 「これからはゼロのルイズじゃなくてマイナスのルイズって呼んだ方がいいな……ゲホッ」 爆風を間近で食らい、煤け乱れた髪を払いながらルイズは悔しさに唇を噛み締める。地面に爪を立て、その細い指が血に滲む。 「……どうして、どうして成功しないのよ」 使い魔すら召喚できない貴族。普段から魔法の成功率は極めて低かったが、召喚の儀式すら満足にできないとは。これではメイジになる以前に問題外である。ルイズは己の余りの不甲斐無さにどうしようもなく惨めな気分に陥っていた。これまで決して他人の前では弱みを見せまいと努力をしてきたが、それも限界に達し、今にも泣き出しそうな表情になる。煙に覆われ、周囲から顔は見えなかったが、その煙も風に流され徐々に晴れていく。 完全に煙が晴れ、ルイズが瞳を涙で潤ませながら顔を上げると、爆発で盆状に削れた爆心地には予想外なものが立っていた。 「……こ、これってもしかしてゴーレム?」 そこには鮮やかな赤色を基調とし、見るからに厳つい体に幾何学的な模様が刻まれた、軽く2メイルを超える大柄な人形が佇んでいた。腕と思わしき所には見たこともない筒状の棍棒が握られている。 人形は微動だにしないが、それは未だに契約がなされていないためかもしれない。ルイズの顔からは涙が消え、反対に日光を受けた蕾が花開くように明るくなっていく。 「やったぁ! こんな強そうなゴーレムを召喚できるなんて!」 飛び跳ねながら全身で喜びを表現しているルイズとはうって変わり、先程まで文句を言っていた生徒達は一様に驚いていた。 「ウソだろ!? ゼロのルイズがあんなゴーレムを召喚できるなんて!」 「ちくしょう、なんであいつが!」 「ふん、ルイズが高位のゴーレムを使い魔になんてできるかよ」 生徒達が嫉妬の声を上げるのは仕方の無いことだった。通常召喚される使い魔は生物であり、ゴーレムのような無機的なものを使い魔にすることは稀である。また、ゴーレムを召喚したとしても、精々が土くれの人形であり、今しがたルイズが召喚した精密に構築されたゴーレムを使い魔にするなど前代未聞である。修行中の身でも明らかな質の違いを感じ取ることはできた。 「あー、ミス・ヴァリエール。喜ぶのは構わないが早く契約の儀式を行いなさい。君の所で大分時間を食っているんだよ」 「あ、ハイ。すいません、今すぐやります!」 頭の禿げ上がった40歳前後の教師に軽く注意され、ルイズは顔を引き締める。しかし体の中から湧き上がってくる喜びを抑えきることはできず、引き締めたはずの顔は微妙に歪んでいる。早く契約の儀式を行って使い魔にしよう。ルイズはうきうきとしながら赤いゴーレムへと近付く。と、そこでちょっとした問題にぶつかった。 「あの、ミスタ・コルベール。頭に背が届かないので私にレビテーションをかけてもらえますか?」 「仕方がありませんね。はい、これで届くはずですよ」 「ありがとうございます」 コルベールが軽く杖を振るうとルイズの体はふわりと浮き上がり、大柄なゴーレムの頭(と思わしき部位)に届くようになった。ルイズはコモンマジックが使えないこともどこへやら、目の前のゴーレムを使い魔とできることに狂喜していた。早速杖を振るい、契約の呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 ルイズがゴーレムの頭に口付けをする。ルイズがしばらく沈黙していると、おもむろにゴーレムの頭や体の各所にあるクリスタル状の物質がカッと光り輝いた。 「きゃっ、なになになに!? ぅおえっぷ!」 ルイズがきゃあきゃあと騒いでいると、次はゴーレムの体中から白い蒸気が吹き出した。その蒸気をまともに受け、ルイズは咳き込んでしまう。しかしそれも短時間のことで、すぐにゴーレムの異常は収まり、クリスタルの輝きも落ち着いた光度になった。 「サモン・サーヴァントは何度も失敗したけど、コントラクト・サーヴァントはしっかりと成功させたね」 コルベールは嬉しそうにうんうんと頷いた。出来の悪い子ほど可愛いとはよく言うものである。 「マジかよ……。ルイズが契約まで成功させやがった」 一方、生徒達にはまたしても大きな衝撃が走ったようであった。今まで下に見ていた人間が大きな成功を収めたことに同様を隠し切れないのも無理からぬことかもしれない。 「ちょっと失礼するよ。ルーンのスケッチを取るからね。……ふむ、珍しいルーンだな」 さらさらと簡単にスケッチを取ると、コルベールは教室に戻るよう生徒達に号令をかける。生徒達は一斉に浮かび上がり、教室の方向へと飛び去っていった。幾人かの生徒は去り際にルイズへ侮辱の言葉を吐いていく。 「ルイズ! お前は歩いて帰ってこいよ!」 「ちょっとばかりいい使い魔を手に入れたからって思い上がるんじゃないわよ!」 生徒達が全員立ち去り、校庭にはルイズとゴーレムがぽつんと立つだけになった。今のルイズにとって、負け惜しみの中傷など何の痛痒も与えるものではなかった。自分はこんなにも立派な使い魔を手に入れたのだ。 「名前を付けてあげたい所だけど、早く教室に戻らなくちゃね。ね、あんた、私を乗せて教室に連れて行きなさい」 そう言うと、ゴーレムはルイズの小柄な体を軽々と持ち上げ、その太い左腕に腰掛けるように乗せた。そこでゴーレムの動きが止まった。ルイズがどうしたのかと怪訝に思うと、具体的な指示を出していないことに気付いた。 「私が指示するからあんたは言うとおりになさい。とりあえずあの棟に向かってちょうだい」 するとゴーレムが歩くでもなく、地面をすべるように移動し始めた。かなりの速度が出ているようで、風を切る音が耳を叩く。もしかしたら自分は今まで誰も手に入れたことのない使い魔を召喚したのかもしれない。ルイズは見た目に反して軽快な動きを見せるゴーレムを見下ろしながらそう思った。 この日、ルイズが召喚した赤いゴーレムの正確な呼称は高性能光学兵器装備重攻機体であり、かつて世界中の戦場で伝説と恐れられた特殊重戦闘VR大隊に配備されていたHBV-05の後継機。HBV-502、通称ライデンと呼ばれる機体だった。 前ページ次ページ重攻の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3129.html
「でもそんな『まれ』が結構起こるんだ。矛盾してるだろ?」BYキルア・ゾルディック 本日は今後の人生を左右すると言っても過言ではない。 使い魔召喚の儀式サモン・サーヴァントを行う日である。 数多くの生徒が素晴らしい使い魔を召喚した。 一番すごいのはタバサノフウリュウ、二番目はキュルケサラマンダー 他の使い魔は知ったこっちゃありません。 「ミス・ヴァリエール」 「は、はい!!ミスタ・コルベール。何でしょう?」 「状況を説明してくれませんか」 「今一度召喚のやり直しを認めてもらえれば」 「神聖な儀式のやり直しは罪悪と知りたまえ」 今、ルイズの目の前にいるのは明らかに変態だった。しかも変なポーズをしている。 三角形の御結びの様な頭、マッチョな体は何故か褌しか身に着けていない。 「これが・・・・・私の使い魔?」 やり直しは却下。すでに使い魔を召喚している者の苦笑。 ルイズのせいで自分の番が回ってこない数人の生徒による「早くしろ」というブーイング。 ルイズはまさに泣きそうである。しかし、ここで泣くわけにはいかない。 とりあえず、近づいて話しかけることにした。 「君は『あんた誰?』という」 「あんただ・・・・・・え?なんで?」 亜人だと思っていたそいつは喋る事ができ、その上自分の言う事を見事に言い当てた。 「我が名は百手太臓!!おまえ、ラ・ヴァリエール公爵の三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだな!!?」 ルイズの頭は大混乱中である。 「心配することは無い、私は君の使い魔になりに来たのだよ」 妙に偉そうだ。 ルイズは正直こんな奴とは契約なんかしたくなかった。 しかし、こんな日がいつか来ると信じ。 常に早売りの本屋に一人で並び、「ゼロの使い魔」を購入している百手太臓には。 2chの「ゼロの使い魔」関連スレを全て熟読した百手太臓には。 そしてこの時のために予習復習を行っていた百手太臓には。 ルイズは必ず自分と契約しなくてはいけないことを知っている。 小ネタとはいえこの世界に来たのだ、今の百手太臓はサイコーにハイってやつだ。 タイゾーは確信していた。今後起こる展開を。 「ルイズ!!そいつと契約しちゃいなよ。なんだったら、 このマリコルヌが契約の呪文を教えてあげようか?こうやるのだよ 『我が名はマリコルヌ・ド・グランドプレ。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我が使い魔となせ』どうだいわかったかな? あ、自分の名前に変える事を忘れちゃだめだよ!」 待たされている生徒代表のマリコルヌは大爆笑中だ。 「では、契約させてもらおうか、将来、この世界で俺の嫁になるルイズよ!!」 ルイズは見た。迫る変態の唇、傍で爆笑しているマリコルヌ。 その中にルイズの頭には一つの希望を見た。成功確立は低い。 しかし、ルイズはそれに賭けたのであった。そして、『まれ』は起きた。 ギーシュは語る 「確かにあった。ありえない?いやあったのだ。 咄嗟の判断の様なものじゃ、ピンチって瞬間に時間が超スローになって、 普段できない発想が頭に浮かぶ。あれに近い。 この情報の信憑性は測りやすいぞ。 なにしろ、マリコルヌとのキスによって変体の手にルーンが刻まれたのだ。 マリコルヌを盾にしてキスさせたのじゃからな。 周りの生徒や先生が注目していたわけじゃ、その場の全員が証人よ」 タバサは語る「あの光景はセクハラだった」と ちなみにルイズは召喚をやり直し、普通の平民・阿久津宏海を召喚し無事契約 太臓もて王サーガより百手太臓、阿久津宏海を召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5263.html
前ページ次ページランス外伝~ゼロと鬼畜な使い魔~ 翌日、シィルが目覚める。 とても清清しい朝である、洗濯物を干すにはぴったりと言うべきだろう。 ランスはまだ寝ている、隣にいた謙信は散歩に言ってるようだ。――というか知らない土地の散歩は迷わないのか。 横には洗濯をする下着が丁寧に置いてある。 シィルはまず、ルイズが寝てる元に向かう。 ルイズの寝顔はかわいいが、正直言うと起きてるとがやがや五月蝿いのでそのまま寝てて欲しかった。 だが起こせと命令されたので、起こす。 「ルイズさん、朝ですよー。」 中々起きない、まだ寝息をたてている。 そこでシィルは思いつく、乱暴に布団を剥がすときっと怒られる。 まずシィルはゆっくりと布団を剥ぐ 次に呪文を唱える。 「ぷち氷の矢、ぷち氷の矢」 徐々にルイズの顔が寝苦しそうになる、当たり前であるネグリジェの上に布団も無く 気温が下がるのだから、そして… 「寒っ!!何事よ!!」 「朝ですよ、ルイズさん。」 「へくちっ!そ、そう、ってあなた誰よ!…あぁ、私が昨日呼び出した使い魔だったわね。」 シィルの妙略によって眠気もすっかり醒めたルイズが色々思い出して、少し気を落としている。 「夢じゃなかったのね…。」 「はい、夢じゃないです。」 「…気にしても、仕方ないわね じゃぁ、早速服を取って頂戴。」 制服が椅子に掛かっていた、それをいそいそと、取ってルイズの所まで丁寧に置いて行く。 ルイズはだるそうにネグリジェを脱いでいた。 「下着」 「何処にありますか?」 「クローゼットの一番下の引き出しよ。」 急いで、下着を手に取るとさっきと同じようにルイズの所まで置いて行く。 ルイズは下着を身に着ける。 「服着せて」 シィルは手際良く、服を着せる 例えるなら小学1年生の入学式を手伝う母の如く。 ルイズは一つも文句を言わないこの使い魔が気に入った …が、胸の大きさが気に入らない。 その頃謙信はというと…。 「ここは…どこだ?。」 当然、迷っていた。 キュー… 謙信の腹の音が鳴る。 「お腹がすいたな…」 謙信は愛の手料理を懐かしく思う…するとどんどん腹が減るので、その内謙信は考えるのをやめた。 そして、ランスが起きる。 一番の寝ぼけ顔である。 「…ふが、よく寝た。 シィルー。」 「おはようございます ランス様!」 「うむ…えっと、ここは…」 「トリステイン魔法学校、そしてあなたは私の使い魔よ 思い出した?。」 「そういえばそうだったな…そう、ここは桃源郷だったな!!」 「は? どうでもいいけど、あなた…シィル…シィル…」 ルイズはシィルに対して知らない事を、思い出すようにわざとらしく考える。 「シィル=プラインです。」 「あぁ、そう あなたとあなた 朝食を食べに行くわよ。」 「おぉ、そういえば腹が減ったな。」 そしてルイズとランスとシィルは一緒に部屋を出る。 すると、似たような木で出来たドアが壁に三つ並んでいた。 そのドアの内の1つが開いて、中から真紅のような髪をしている女の子が現れた。 見る所ルイズより幼くない、しかも顔も中々胸は上々である。 その真紅の髪の彼女は、ルイズを見てにやっと笑った。 「おはよう、ルイズ。」 ルイズは顔をしかめて、嫌そうに返事をする。 「おはよう、キュルケ。」 「あなたの使い魔ってその人たち?」 キュルケはランスとシィルを指差し、馬鹿にした口調で言った。 「いいえ―――。」 その言葉を遮るように、お腹を空かせた謙信が走ってくる。 「ルイズ殿、お腹が…」 「これで全員よ。」 「あっはっは!本当に3人も平民を召喚したのね!本当に凄いじゃない。」 この会話にランスは腹を立てていた。 何故こんな小娘達に馬鹿にされるような扱いをされなければならないのだ。 だが俺様はゼスとリーザスとJAPANを支配した男だ…これは、あれだな試練だ。 この試練を刻々と切り抜ければ、この世界の女共は俺様の者だ。 そうすりゃこの女も俺の者だ…ぐふふ。 そう納得するランスは、しぶしぶ我慢する。 「私なんか、こーんな立派な火トカゲを召喚しちゃったわよ!。」 そしてキュルケが出てきたドアから大きなトカゲが出てきた。 尻尾が炎で燃えており、とても熱そうだ。 ランスがキュルケにたずねる。 「熱そうだな。」 「んー、私にとっては涼しいくらいね。」 ランスも勿論色々な物に会って来た。 これくらいでは驚かない その中でルイズが怒りながら、シィルとランスに怒鳴る。 「とっとといくわよ!。」 「何をそんなに怒っているのだ。」 「あ、そうそう、貴方達名前は?」 「ランス様だ で、こっちが奴隷のシィルだ。で、今きたのが謙信ちゃんだ。」 「そう、変な名前ね じゃ お先に失礼 教室で会いましょうねゼロのルイズ。」 そう言うと、キュルケは颯爽と去っていく、火トカゲはそのキュルケの後について行く。 そして、キュルケがいなくなると、ルイズは拳を握り締める。 「くやしー! 何なのあの女!自分が立派なサラマンダーを召喚できたからって!!」 「召喚された動物(?)によって何かあるのか?」 「えぇ、そう…メイジ 簡単に言うと魔法使いね、魔法使いの実力を測るにはまず、使い魔を見ろって言われてるのよ…。」 「ふーん。」 自分で質問をした癖に、とてもどうでもいい感じで聞き流す。 ランスはさっきの少女が言ってた発言の一つに気になるところがあった。 「所でゼロって何だ?胸か?」 あのキュルケって少女とこのルイズのバストを比較すると、とてもとても敵うものじゃない。 その発言が不味かったのか、問答無用で平手が飛んでくる。だがそれをかわす。 「よけるな!」 「なんでじゃ!。」 これは図星ではない。 つまり、他にゼロと呼ばれる理由があるのだ。 だが正直、知る気もしない。 ぐー…。 誰かのお腹がなる。 「すまん…」 謙信のお腹である、その恥ずかしがる表情の可愛い事。 「…朝食だったわね、食堂にいくわよ。」 トリステイン魔法学院の食堂は広く、綺麗で100人は余裕で座れるスペースがある。 「うわー、すごい広いですね!ランス様!。」 「うむ、ここまで広い食堂というのは見た事が無いな。」 ルイズは席に座り、この食堂について話す。 「ここはアルヴィーズの食堂と言ってね、貴族しか入れない館よ、平民は入れないけど、貴方達は私 の特別な計らいで入れてもらってるのよ。」 「なるほど で…アルヴィーズってのはなんだ?」 「小人の名前、周りに像がたくさん並んでるでしょ、夜には踊ってるのよ。」 「へー…。」 と、シィルが席を引きランスが席に座ろうとする所でルイズが止める。 「貴方達は平民で、普通は入れない場所よ?席で食べれると思う?」 「じゃあどこで――。」 「あそこ。」 ルイズが指をさす、そこには皿が3枚、スープに黒パン という…とても質素な物だった…。 「……」 ランス達はこれでギリギリ食いつなげるが、もちろん謙信ちゃんがこんだけでは満足にならないのは明白である。 「ルイズ、謙信ちゃん物凄くその…大食らいなんだよ…謙信ちゃんだけでもいいから席に座らせてくれ。」 「駄目。」 「いや…いい、これで…我慢できる…と思う…。」 もちろん無理な話だった、食事を食べ終わった3人の内ある一人の腹の虫が数秒毎に鳴る。 「ぁあっ!もういいわよ!座りなさいよ!満足になるまで食べればいいじゃない!!」 「――いいのか?。」 「えぇ、もうそんな腹の虫を鳴らせた状態で授業なんかいけるわけないでしょ!」 「かたじけない…。」 その後の謙信の食事の量は凄かった、前にあるでかい鳥のローストは骨だけになるわ、パイは全部皿だけだわ とにかく、綺麗に食べられていたが、テーブルの殆どの料理が謙信の腹の中に収まる。 「なんて…量を…。」 ルイズはとにかく驚くしかなかった、まず驚く所はこの体のどこにそこまでの料理が入るのか、何故これだけ食べてて こんなスタイルを維持できるのか…。 「少し文化の違う味がしたがおいしかった、ごちそうさまでした。」 「ま、まぁいいわ、教室に行くわよ。」 そのままランス一行はルイズについて行く、教室はほぼ石でできていた。 その中に生徒がいて、その隣や肩や足元には様々な動物がいる。 中に入ると、先に入った生徒達がこちらをぽーっと見てたり、くすくすと笑う。 こう見られて笑われるのはあまり気持ちの良い物ではない。 周りを見るとキュルケが男性勢に祭り上げられていた。 「貴方達は床に座りなさい、ここはメイジの席よ。」 実はシィルもここの世界ではメイジなのだが、ランスの奴隷でもある それに色々複雑になりそうだから教えない事にしておいている。 しばらくすると、扉が開き、中年の女性が入ってくる紫色のローブに帽子を被っている、ふくよかな頬が優しげな雰囲気を出している。 その彼女が教室を見渡すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん、春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ こうやって春の新学期に、様々な使い魔を見るのがとてもとても楽しみなのですよ。」 シュヴルーズがこちらを向くと、ルイズが俯く。 「おやおや、変わった使い魔達を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール。」 シュヴルーズが、ランス達を見てとぼけた声で言う。 すると教室中が笑いに包まれる。 「ゼロのルイズ!召喚できなかったからって、平民を3人もつれてくるなよ!むしろ分けろ!」 ルイズは立ち上がる。長い桃色の髪を揺らして、可愛く澄んだ声で怒鳴る。 「違うわ!ちゃんと召喚したもの!こいつ等が勝手に来ちゃっただけよ!」 「嘘をつくな!『サモン・サーヴァント』ができなかっただけだろう?どこで拾って来た、言ってみ?ん?」 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」 「風っぴき…?俺は風上のマリコルヌだ!風なんかひいてないぞ!」 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪を引いてるみたいなのよ!」 「年が年の癖に餓鬼みたいな話だな。」 ランスがそう言うと、ルイズが怒り出す。 「何ですって?餓鬼?私達の何処が!」 「どうみても餓鬼だ、風邪っぴきだの、ゼロだのルイズもルイズだな軽く受け流す事ぐらい覚えろ。」 「そこの使い魔さんの言うとおりですよ、お友達をそんな風に呼んではなりません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ 僕の風っぴきは只の中傷ですが、ゼロは事実です。」 くすくすと笑いが漏れる。 この時マリコルヌはランスに対し、平民が貴族に餓鬼呼ばわりした事で敵意を抱いた。 シュヴルーズは、厳しい顔で辺りを見回した。そして、笑っている人を見つけると杖を振った。 生徒達の口にぴたっと赤土の粘土が押し付けられた。 「貴方達はその格好で授業をしてなさい。」 教室のくすくす笑いがおさまる。 「では授業を始めますよ。」 シュヴルーズがまたも杖を振ると机の上に石ころが現れる 「私の二つ名は赤土 赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法を1年間講義します。魔法の四大系統はご存知ですね?」 「はい。ミセスシュヴルーズ。火土水風です!」 「よろしい、今は失われてますが虚無の系統をあわせて、全部で5つの系統があることは皆知っての通りです。 その五つの中で土はもっとも重要なポジションだと私は思います。別に私が土系統だからひいきしている訳ではありませんよ?」 「土系統の魔法は、万物の組成を司る、重要な魔法であるのです。 この魔法が無ければ、重要な金属を作り出す事もできないし、加工することもできません大きな石を切り出し、 建物を立てることもできなければ、農作物の収穫も今より手間とるでしょう。 このように土系統の魔法はみなさんの生活の密接に影響しているのです。」 「では、皆さんにはこれから土系統魔法の基本「錬金」の魔法を覚えてもらいます。 基本は大事ですので、何度も復習しましょう。」 シュヴルーズが杖を振る、するとただの石ころに光が宿る…光がおさまると、ただの石ころだった物が キラキラと光る金属に変わっていた。 「ゴ…ゴゴゴールドですか?ミセス・シュヴルーズ。」 キュルケが身を乗り出して言う。 「違います、ただの真鍮です、ゴールドはスクウェアだけです、私はただの…トライアングルですから…」 もったいぶっていった、ミス・シュヴルーズが周りを見渡す。 「そうですね…まず ミス・ヴァリエールやってみなさい。」 「わ、私ですか?」 「ええ、好きな金属に変えてみなさい。」 そこに、キュルケが立ち上がる。 「先生!」 「なんですか?ミス・ツェルプストー」 「やめといた方が良いです、とにかく危険です。」 教室中の全員が頷く。 「危険?錬金の呪文で?」 もちろん、錬金は、ただ物質を変換させるだけの呪文である。 危険な事は一切無いはずなのだが…。 「ルイズを教えるのは初めてですね?」 「ええ、でも。彼女が大変な努力家と言う事は聞いております。ミス・ヴァリエール、気にせずやってみなさい。 失敗を気にしては、何もできません。」 「ルイズ。やめて!」 キュルケが蒼白な顔で言う。 「やります。」 ルイズは立ち上がる。 緊張した顔で、教室の前に行く、するとシィルが応援の声をかける。 「がんばってください、ルイズさん!」 ルイズはシィルの方に振り向く、何も言わずまた前を向き、黒板の前に行く。 ルイズはシィルの発言に胸が熱くなった。 …私は失敗ばっかりして、私が杖を握るとどうせ、失敗すると言われて… 頑張れなんていわれなかった、全員が落胆していた…でも、久しぶりに応援された…応援…された。 「ミス・ヴァリエール変えたい金属を、心に強く思い浮かべるのです。」 こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げる。 ルイズは目をつむり短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。 瞬間、石ころは爆発し、机は約半分吹き飛んでいた。 間近で爆風をモロに受けたシュヴルーズとルイズは黒板にぶち当たる。 そして、悲鳴が上がる、その音にびっくりした周りの使い魔は。 突如暴れだした、正に阿鼻叫喚な状態だった。 床に座ってたランス達は、膝立ち状態で周りを見やる。 「す、すごい威力ですね…。」 「う、うむ、アニスまではいかんが…。」 なるほど、ゼロと呼ばれる理由、魔法が全くできないからゼロか ランスは一つ謎を解決させると、周りを見る。 一言でしかこの惨状を表す事ができなかった、これはひどい。 シュヴルーズ先生は、たまに痙攣をしてるから死んではないだろう。 キュルケが立ち上がる。 「だから、ルイズにやらせるなっていったのよ!!」 煤で真っ黒になったルイズがむくりと立ち上がる見るも無残な格好であった。 ブラウスが破れ、華奢な肩が覗いている、スカートも破れ、パンツも見えている。 そのルイズが、この教室の惨状も気にせず。ハンカチを取り出し、顔を拭いて、口を開く。 「ちょっと、失敗みたいね。」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「お前の魔法の成功率常に0じゃないか!!」 「謙信ちゃん、この後どうなると思う、賭けて見よう。」 「…後片付け…だと思う。」 「だよなぁ…。」 前ページ次ページランス外伝~ゼロと鬼畜な使い魔~
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3364.html
前ページ次ページゼロと魔砲使い なのはが自分のことを『ご主人様』と呼んでくれたのを聞いて、ルイズは少し安心して再び彼女の元へ近づいていった。 内心はびくびくものであったが、それでもめいっぱい強がってなのはを見つめる。 彼女が膝立ちだったせいで、ちょうど目の高さが合う。ちゃんと立ったらかなり差が出そうなのを気にしつつも、ルイズは力強く言った。 「ん、ちゃんと判ったのね。タカマチナノハ」 「あ、なのはでいいよ」 なのははルイズが自分を『タカマチナノハ』と呼んだ時のイントネーションが、平板で姓と名を区別していないものであることに気がつき、あわてて修正する。 その時なのはふと違和感を覚えた。そしてそれがなんであったかすぐに気がつく。 (言葉が、通じている?) (“改造の効果もあるみたいですが、それ以前に彼女の言葉は、かなり変形していますがミッドチルダ標準語から外れていません”) これが、なのはがこの世界、ハルケギニアに対して疑念と興味を同時に抱く第一歩となった。 一方ルイズも、そのフレンドリーな言い方にちょっととまどったものの、すぐにそれを受け入れた。 「なのは、でいいのね」 「はい、ご主人様」 ルイズはなのはの返事に、友愛はあっても尊敬の念がいまいち薄いのを感じてちょっと不快な気分になった。だが、まだ出会ったばかりの上、年上の女性であるということがその不快感を押さえつけた。その語感が、敬愛するちい姉様のものに似ていたのも一因かも知れない。 「さて皆さん、これで儀式は終わりです。教室に戻りなさい」 なのは達の様子が落ち着いたのを見て取ったコルベールが、生徒達に声をかける。 生徒達はそれぞれが空を飛んで教室へ戻っていった。 これが黒髪の少年なら驚くことだが、なのはにとっては見慣れた光景である。何事もないようにスルーした。 残っているのはルイズとコルベール、そしてなのはである。 コルベールはなのはに向かって、礼儀正しく頭を下げると言った。 「いや、タカマチナノハさん、突然のことで混乱したでしょうが、理性的な応対をしていただいたことに感謝いたします。あ、申し遅れました。私はコルベール。こちら、トリステイン魔法学院の教職を拝命しております」 「これはご丁寧に、コルベール先生」 丁寧な物言いに、なのはもやはり礼儀正しく叩頭する。 「で、私はこの後どうすればよいのでしょうか」 ある意味当然の質問をしたなのはに対して、コルベールは、 「うーん、本来ならまだ授業があるのですが、人間が使い魔として召喚されたというのは初めてのこと。ミス・ヴァリエール、本日は特別にこの後の授業を免除いたしますから、彼女にこの学院のことや使い魔としてのことを教えなさい。よろしいですね」 「はい、判りました」 ルイズも素直に頷く。普通の使い魔は、コントラクト・サーヴァントの呪文が成功すると、ある程度の知性の高まりとともに、ほぼ本能的に主の意に従うようになる。 例外は召喚されたものが少なくとも人間に匹敵する高度な知性を持っていた場合であるが、それでもたいていの場合、召喚に応じている時点で主に対する好感を持っている場合が多く、使い魔が反抗したという例は記録に残っていない。 そういう点でも、理性ある人間を召喚してしまったルイズは、例外中の例外なのであろう。 「おお、そうそう。後申し訳ないが、そのルーンを写させてもらえないかな? 私も長年教職にあるが、こんなルーンは見たことがないものでね。少し調べてみたい」 なのはは当然了承するつもりだったが、今の自分の立場を考慮して、ルイズの方を見、問いかける。 「ご主人様、よろしいでしょうか」 「ん、いいわよ」 ルイズはかっと顔が赤くなるのを感じていた。別に変な趣味があるわけではない。 この使い魔になってくれた女性は、自分を立ててくれている。 今の一言で、ルイズは覚っていた。 使い魔のルーンを教職であるミスタ・コルベールが見たがるのは当然のことだ。ルイズにしても彼が勝手にそれを写したとしても別にとがめるようなことはない。ある意味それは彼の職務の一環でもあるのだから。 だがこの女性は、私の使い魔となったこの人は。 問いに対して、即座に自分に対して許可を求めた。それは彼女の敬意の証であり、彼女が自分を主として立ててくれるという意思の表れでもあった。 実のところ、身分はあっても貴族の貴族たるゆえんである魔法がまるで駄目だったルイズは、こういう無条件の敬意を受けたことがほとんど無い。実家のメイド達ですら、かすかにではあるが、ルイズに対して向けられる、そこはかとない失望感のようなものが感じ取れてしまう。 彼らに悪意があるわけではない。むしろ世間一般やここの学院生などに比べれば、天と地ほどの差がある好意を抱いてくれている。だが、むしろ好意あるが故に、それと表裏一体の期待感が、そしてさらにそれと表裏一体の失望が見えてしまう。 彼らとて、主は自慢できる主であってほしいのだ。ろくに魔法を使えない主に対して、愛するが故に失望してしまうほどに。 自分が好意を受けるのにふさわしい人物ではない。それはルイズの心の奥底深くにまで巣くっている、暗黒の想いであった。 そんな彼女が向けられた、掛け値なしの敬意。それは大変に興奮する、心地よい高揚であった。 が、それもすぐに暗い想いに反転する。そう、彼女はまだ知らない。自分が『ゼロ』のルイズ、いつも魔法を爆発させてしまう、欠陥品の貴族であることを。 それは暗い想い。希望と絶望が交錯し、そしていつもルイズを傷つけるに終わる、悲しい想い。 その悲しみが、彼女の心に刃をもたらす。 程なくコルベールはルーンを写し終える。それを見計らって、彼女は己が使い魔に声を掛ける。 「行くわ、いらっしゃい」 なのはは少し不審に思う。ついさっき、いいわよと声を掛けられた時に比べ、今の声はあまりにも冷たく、また、悲しかった。 人気のない通路をしばらく歩き、二人はとある部屋――ルイズの部屋へと到着した。 個人向けの寮の一室にしては、広さも調度も上質のものがそろえられている。文明の発展度合いの差を考慮すれば、おそらくは一流のホテル並みなのでは、と、なのはは推測した。 ルイズはなのはに椅子に座るよう示唆した後、自分もその向かいにある椅子に座った。 お茶の一つもほしいところであったが、使い魔にはこれから教えなければならないし、自分で入れるなど考えの範疇外だったので、そこは我慢する。 「さて、なのは」 ルイズはあえてなのはを呼び捨てにする。何となくなのはさんと親しみを込めて呼びたくなるのを意志の力で押さえつけながら。ルイズは実家の環境故か、明らかに年長に見える女性に対して威圧的に出るのは苦手であった。キュルケのようなタイプならともかくとして。 「あなたには使い魔としていろいろやってもらうことがあるんだけど……」 ここでルイズは少し考える。主な使い魔の仕事を頭に思い浮かべ、目の前の女性に当てはめてみる。 「まず、使い魔は主人の目や耳になる……感覚の同調が出来るはずなんだけど、それは無理みたいね。ま、これは仕方ないわ」 「ああ、ありますね、そういう能力」 なのはは親友とその使い魔の事を思い出しつつ答える。ちょっと寂しさがこみ上げてきたが、そこは無理矢理押しつぶす。 「感覚、繋がってませんよね」 「そうみたいね」 もっともルイズにしても、猫や鳥ならともかく、妙齢の女性とそういう感覚が繋がってしまったらかえって不便そうな気がしていた。 「あ、でも、ひょっとしたら」 と、目の前のなのはがなにやら思いついたような様子を見せた。 何事かしら、と思った瞬間、聞いたことのない声がいきなり響いた。 (念話は通じるかな) 「な、なに! 今いきなり頭のに中に声が!」 (あ、通じたんだ。試しに声には出さないで、頭の中で答えてみて?) (頭の中で?) (あ、そんな感じ。念話は出来る、と) 「念話?」 そんなやり取りが頭の中を通り過ぎた後、ルイズは改めてなのはに聞いた。 「うん。こっちではあんまり一般的じゃないのかな?」 「一般的も何も初めて聞いたわ」 「そっか~。じゃあ、ここではたまたまなのかな。こっちの地元だと、割と当たり前のことだったから」 「そ、そうなんだ」 ルイズはびっくりしたものの、あまり驚くと何となく田舎ものっぽく思われるような気がしたので、その辺は突っ込まないことにした。 「でも、これって便利よね、うん。どのくらいまで届くのかな」 「さあ、ここでどのくらいかは判らないけど、お互い知ったもの同士なら、かなり遠くまで届くと思うわ」 これについては機会があったら実験してみようと言うことにした。 「で、ほかには秘薬の材料集め……は、ちょっと無理って言うか意味ないわね。元々そういうのは、『人の手の届かないところにあるもの』を取ってこさせるためなんだもん」 「確かに。そもそも私、秘薬の材料の見分けなんて付かないし」 「ええ、だからそれはパスね」 二人がそろって頷く。 「後は雑用と護衛なんだけど、護衛はともかく、雑用は出来る? 出来なくてもやってもらうけど、腕前は確認しておきたいから」 なのはは苦笑しつつも強引なご主人様に対して返事をする。 「一応は出来るけど、なんて言うのかな、生活様式が私のところとここじゃ全然違うから、すぐにこなせって言うのはきついかも。でも一応は何とかするね」 「ん、お願い」 さすがにルイズも頭ごなしに命令する気はしなかった。ここでも姉に似た人物に対しての苦手意識が見え隠れしている。 「それにね、どっちかって言うと護衛の方が得意かも」 「へ?」 さすがにこの一言はルイズにとっても意外だった。 「そうなの? そんな風には見えないけど」 「あ、私、元のところじゃ軍人に近い仕事してたから」 近いと言うよりほぼ軍人だが、管理局は軍事行動はしても厳密には軍隊ではない。というより軍のシステムをも取り込んだ巨大な組織である。 さすがに中世レベルと思われるこの世界で、管理局の概念を説明するのは、なのはにとってもまだ難しかった。 「それはちょっと意外ね……ま、いずれ見せてもらうわね。そう、そっちから聞きたいことはある?」 ルイズはその一言を言ったことを心底後悔することになった。 なのはからの質問はそれこそありとあらゆる事に及んだのだ。地理、歴史、文化、魔法、学生生活etc、etc…… 結果、夕食の時間になったという知らせが来るまで、ルイズは質問攻めにされた。しかも夕食後も聞く気満々なのが見て取れる。うっとうしかったが、 「使い魔としてルイズ様に正しく仕えるためには、こちらでの一般常識や基礎知識を覚えておくことは必須です。ルイズ様も常識を知らない使い魔が粗相をするのは恥ずかしいのではありませんか? 使い魔の恥は主人の恥になると思いますけど」 と、いかにもな正論をぶちあげられて返答に詰まってしまった。 それが正解なのが何とも癪である。 結局、この日は寝るまでなのはに対するハルケギニアのレクチャーに費やされてしまった。 (でも、それって彼女があたしに仕えてくれるっていう証なのよね) そう思うと、何ともいえないむずがゆい気分になってしまうルイズであった。 寝床は床に藁束を敷いたものであった。さすがに床に寝ろとはルイズもいえなかったが、一緒に寝ようとも言い出せず、この辺が妥協点になった。ちなみに藁の量はたっぷりで、サイトが寝ていたものより多い。 「後で予備のベッドは何とかするから、しばらくはこれで我慢してね」 まあ干し草のベッドというのも、草の量が充分ならそれほど寝心地の悪いものではない。たっぷり空気を含むので、意外と暖かいのだ。 しかし、なのははルイズが寝込んでもまだ起きていた。一緒にこちらへと持ち込まれたパソコンを起動し、ルイズから聞いた話を片っ端から打ち込んでデータ化する。 (驚いたな……なんかかなり風変わりな世界みたい。中世レベルの文明なのに、妙に進んでいるところも多いし) 細かいところでは下水の処理だ。なのはは以前、こことよく似た中世ヨーロッパでは、いわゆる屎尿の処理が不完全で、その悪影響に大変困っていたという記述を見たことがあった。 だがこちらではその辺が完璧に処理されていた。さすがに水洗でこそ無いものの、汚物はきちんとまとめられ、悪臭等もきちんと魔法を利用した秘薬等で処理されていた。 さすがにそういうことは貴族レベルの生活水準でないと出来ないようであったが、庶民レベルでもそれなりの処置は取られており、しかもそれがごく当たり前のことのようであった。 そのほか、食事の前に手を洗うとか、細かい衛生の概念がごく当たり前の常識として広まっている。細菌のさの字も知らない社会においてである。 その辺を何気なく突っ込んでみると、始祖の時代からの伝統らしい。 (始祖の時代って……6000年前よね。考えてみると、すごいのか遅れてるのか、どっちなんだろう) 地球では中国でもせいぜい4~5000年程度。まともに記録が残っているのはせいぜい2~3000年前までである。さらにいえばここ4~500年間で文明が一気に進歩している。対してこちらは6000年前からそれほど変わりばえのない歴史が続いているらしい。 それもこれもこちら独自の魔法のせいか、となのはは思う。 何故かものすごく嫌そうにしていたが、一応簡単な説明は受けた。地水火風の系統魔法、そして伝説の『虚無』。あとエルフといわれる先住民族が使うといわれる『先住魔法』。明らかにミッドチルダ式ともベルカ式とも違う、この地独自の魔法だ。 自分をここに召喚したのもこの魔法である以上、調査してみる必要性があることをなのはは感じていた。 「これが一緒に来たのはついていたわね」 なのはは傍らに置かれたスキャナーを眺める。これがあれば、きわめて緻密に、どのような魔力が魔法の発動の際働いているかを詳しく調べられる。 機械操作そのものにはある程度の自信があるなのはでも、専門的な知識もいるこれらの機器は自分では有効にに操作できない。が、レイジングハートが意外とこの手のものの操作には長けている。自分の外部システムとして利用できるからだ。 伊達に自分で自分の改良プランを提出できるインテリジェンスデバイスではない。 だがそれは細かいことだ。それよりも重要なのはこちらの魔法原理である。 ざっと聞いただけでも、こちらでは魔法が万能のツールのようであった。魔法さえ使えれば、大規模な科学技術の進歩がいらなくなってしまう程度の汎用性を持ち合わせた魔法体系。 ミッド式やベルカ式は、その大半が戦闘目的の魔法である。それ以外のものも、災害救助など、軍事目的のものからの転用が多い。日常生活に有益な魔法はあまりないのが実情である。 さらになのはは考える。一番気になっているのは、こちらの度量衡……単位系統であった。 名称はともかく、1メイルという長さがものすごく引っかかっていた。 1メイルはほぼ地球やミッドチルダでの1メートルに相当する。ミッドチルダと第97管理外世界・地球は基本的に同位世界であり、こういった単位とかにおいての共通点は多い。 どの管理世界・管理外世界でも、ある程度発展した世界の場合、長さの単位は1メートルの整数倍に落ち着いていることが多いのだ。その理由はもちろん、地球の円周を基準にした文明が多いからである。 だが、このハルケギニアの地においてはきわめて不自然なことであった。ここの文明においては始祖ブリミルの影響がきわめて大きい。こういう文明形態の場合、度量衡の基本単位は始祖の体の長さや体重が用いられる場合が多い。 メートル法ではなく、尺貫法やヤード・ポンド法の考え方である。だが、この地の単位系は明らかにMKS系の流れを汲んでいた。偶然の一致というには不自然なまでに。 たとえここが同位世界だとしても、1メートルの定義には地球の大きさの測定という概念が必要である。だがここには明らかにそんなものはない。 その辺の事情は、なのはにとって興味深いものであった。 「なんかいろいろ裏がありそうだけど、データの分析と蓄積はお願いね、レイジングハート」 “はい、マスター” まだまだ考えたいことはあったが、さしものなのはも限界になり、未知の世界において初めての眠りに落ちていった。 前ページ次ページゼロと魔砲使い
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6615.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 危険に対する感覚は人間よりも動物のほうがはるかに鋭敏なものを持つ。 それは他の動物よりも強靱な肉体を持つ竜でも例外ではない。むしろより優れているかも知れない。 騎手からの操縦が突如失われた風竜はすぐさまシルフィードの追跡をやめ、この危険を感じる空域から離れるべく進路を変えた。 そんな追跡者の事情など知る由もなかったが、飛び去っていく風竜の姿にキュルケはほっと胸をなで下ろした。 「やったわ!うわくいったわよ」 竜騎士は完全に自分達を見失ない、ふらふらと全く見当外れの方向に飛んでいる。 レコン・キスタに捕らえられる危機からは脱したのだ。 そう考えたキュルケはまだ前を見続けている親友を抱きしめた。 「ねえ、でしょ?タバサ」 こんな事をしても、この青い髪の下の表情を滅多に変えない親友が自分と同じように感情をあらわにするとは思っていない。 だからタバサが頭を胸にぽんと落としてきたのには驚いてしまった。 「ちょっと、タバサ」 思いがけない仕草に顔を赤らめながらも慌ててしまったが、様子がおかしい事に気付いた。 タバサの体は力を失っているる上に白い制服が透けるくらいに汗でぬれてしまっている。 「どうしたの?どうしたのよタバサ!」 頬を軽く叩いて体をさすってもタバサは答えない。 目をぎゅっとつぶり、荒く呼吸をしている様子は病にかかったかのようにも見える。 「タバサはどうしたんだい?このままでは!」 「静かにしなさい!」 ギーシュが騒ぐのもわかる。 タバサが倒れてしまったなら誰もシルフィードを操れない。 シルフィードの主人でもなく竜騎士でもないキュルケやギーシュにはそんなことできっこない。 「ねえ、お願い。シルフィード。私の言うことを聞いて」 もう、やれることをやるしかない。 ダメ元でキュルケはシルフィードに向かって悲鳴の混じりの声で叫んだ。 「きゅう」 シルフィードが頷いたように見えたのは気のせいだろうか。 使い魔となった動物は次第に知能が得て、言葉を理解するようになるが、主人以外の言葉を理解するには時間がかかる。 だが今のシルフィードはまるで次の言葉を待っているように見えた。 「お願いよ。ゆっくり降りて。ゆっくり」 2人が落ちないようにタバサとユーノを抱く手に力を入れて待った。 「きゅっ」 するとキュルケの言葉に従って、シルフィードがゆっくり地面に近づいていく。 シルフィードは言葉が理解できたのだ。 これなら無事に下に降りられるかも知れない。 「キュルケ、あそこだ。あそこを見てくれ」 シルフィードの背びれにしがみつきながら首を伸ばしているギーシュの視線をキュルケは追ってみた。 すぐにはわかった。 森を切り開いて作った空き地の中に数件の藁葺きの小屋が建っている。 「ねえ、シルフィード。わかる?あそこの小屋の前よ。あそこに降りて」 この少し複雑な指示をシルフィードは理解してくれるだろうか。 その不安にシルフィードは 「きゅい」 と小さく鳴いて翼をばさりと動かす。 風の音が大きくなると、雲が高く上っていく。 キュルケの腕に抱かれるタバサはいつにも増して小さく見えた。 小屋の前に降りたシルフィードは地面に足を着く寸前に羽いっぱいに空気を掴んで大きく羽ばたいた。 キュルケは砂埃を心配したが、森の湿り気を含んだ地面はそれを巻き起こすことなく空からの侵入者を迎え入れてくれた。 シルフィードの背中かから下りるキュルケには無数の視線が向けられる。 その一つ一つに笑顔で返しているうちに眉をぴくりと動かした。 怯えている者、好奇心が勝っている者、いろいろあるがその視線は全て子供の目から出ているのだ。 「ねえ、誰か大人の人はいないの?お父さんやお母さんは?」 その声に驚いたのか子供達は一斉に隠れて姿を隠してしまう。 もっとも、やっぱり好奇心の勝っている子供もいるらしく、建物の影や木の後ろからそっと出した顔が見えてはいた。 いつもならそれをからかって遊んでやりたくもなったのだが、今は続いて降りてきたギーシュが背負っているタバサのほうが心配だ。 荒い息に交じってうめき声まで聞こえてくる。 「ねえ、誰かいないの?ねえ」 それに応えるように開かれた扉はちょうど真正面にあった。 そこから出てきたのはキュルケ達を見ていた子供達よりはずっと年上ではあるものの、まだ大人にはなりきれていない少女だった。 ただの少女ではない。誰の目でも引いてしまうような少女だ。 輝いているような金色の長髪に、美しいという言葉が陳腐に感じるような顔立ち。 宮廷の婦人達もうらやむようなきめの細かい肌。 身につけている粗末な草色のワンピースと白いサンダルも彼女が身につければ美しさを引き立てるアクセサリーとなる。 耳まで隠せそうな大きな帽子はそれらより上等であったが、それもアンバランスではなくミスマッチとなっていた。 だが、実のところそんなものはどうでもいい。 いや、ほんとにどうでもいい。 ギーシュの目を釘付けにしているのも、キュルケを絶句させてしまっているのもそんなものではないからだ。 それは何か……胸だ。 その少女の胸だ。 いや、胸と言っていいのかどうか。 とにかく反則的に大きい胸をその少女は備えていたのだ。 キュルケも男を惹きつける要素の一つとして自分の胸には自信を持っていたが、さすがにこれほどではない。 「そこのあなた」 といっても、その驚きに浸っている場合ではない。 「は、はい」 恥ずかしがり屋なのか、その少女は一番人の目を引く胸ではなく、顔を帽子で隠して答えた。 「私の連れが倒れてしまったの。休ませてもらえないかしら?」 「あ、はい。どうぞ」 首を伸ばすようにキュルケの後ろを見た少女はギーシュに背負われてぐったりしているタバサに気づき、扉を大きく開けてキュルケ達を招く。 シルフィードも入ろうとしたが、扉をくぐれるはずもなく窓の外で悲しげにきゅいきゅいなくばかりだった。 たった一通の手紙。 それがこの危険な旅の始まりであり目的だった。 偶然に助けられ、その手紙はアルビオンのニューカッスル城にてウェールズ・テューダーより渡され、今ルイズの手の中にあった。 求めていたものを手に入れたのだ。 それなのにルイズは喜びを感じることができずにいた。 この手の中にある手紙にはアンリエッタの思いが込められている。 もし、それが重さを持つとしたらルイズの手には余るほどの重さになるに違いない。 なのに、それ程のものを持ってしてもアルビオン王家最後の王子として圧倒的な兵力を持つ叛徒レコン・キスタと戦い、それによる死を持ってしてトリステイン侵攻を遅らせようとするウェールズの気持ちを変えることができなかった。 しかしウェールズの命こそアンリエッタが本当に望んでいたもののはず。 「だったら、私がここに来た意味はあったの?」 ──ユーノが命をかけたことに意味はあったの? それに答える者はいない。 ルイズは溜息ととも立ち上がり、傍らに置いていたドレスを手に取った。 今夜、この城で行われるパーティにはこのドレスを着て出るつもりだ。 それは華やかなものになるだろう。 だが、そのこともルイズの心を晴らすようなものではなかった。 じわっと広がるスープの味を口の中で転がす。 高価な香草や肉を使っている学院で食べるスープとはまた違う素朴な美味しさをキュルケは味わっていた。。 さして自覚はしていなかったがお腹の中はもう空っぽだったようで、キュルケはスプーンをいつもより早く動かしている。 ギーシュに至ってはうまいうまいと皿に口をつけて直接かき込んでいるような有様だ。 皿を空にして一休みしていると、帽子をかぶったティファニアが部屋に入って来た。 「あの、おかわりはいかがですか?」 室内でも帽子を取らないティファニアにおかしさを感じはしたものの、もう少し物足りなかったキュルケはその言葉に甘えてもう一杯食べることにした。 「タバサのこと、ありがとうね」 「あ、いえ。そんな」 貴族にお礼を言われたせいかティファニアは大げさなほどにどぎまぎして帽子の鍔で耳を押さえた。 「で、タバサはどうだった?」 キュルケはトライアングルのメイジではあるが怪我や病気の治療に使える水の魔法を苦手としている。 ギーシュに至ってはドットで土以外には不案内。 借りたベッドに寝かせたものの突然倒れたタバサをどうしたらいいか分からないでいると、キュルケ達を出迎えたティファニアが看病をかってでてくれていた。 「何か酷く疲れているようです。お薬を飲んでいただきました。」 「薬?水の秘薬があるのかい?」 いち早くもらったおかわりを口の中に入れたまま驚くギーシュにティファニアは頭を振って答えた。 「いえ、そんなものじゃないんです。この辺りで採れる薬草です」 孤児院をしているというこの村の子供達が病気や怪我をした時のためにおいていた薬をわけてくれたのだろう。 「今は?」 「寝てしまわれました」 薬がよほどよく効いたのか、ここに来た時は息も荒くうなされていたタバサが、もう寝てしまうくらいに良くなったのだ。 安心したキュルケはおかわりのスープを落ち着いて口に運んだ。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8076.html
前ページ次ページ天才と虚無 レメディウス・レヴィ・ラズエル ラズエル子爵家の嫡男であり、また、ラズエル咒式総合社の咒式技術者。 二十代という若さでありながら、宝珠や機関部などの咒式制御系において、いくつもの特許を取得している。 さらに、十二歳のときにチェルス将棋の大陸大会において、二十二歳以下の部門を制覇した、正真正銘の天才である。 そんな彼は咒式技術者として砂漠の国ウルムンを訪れた際、<曙光の戦線>という過激派集団に襲われ、誘拐される。 衣服以外の一切の所持品を奪われて、レメディウスは牢獄に幽閉されていた。 しかしそんなある日、レメディウスは牢獄の中に、光る姿見のようなものを発見した。 牢獄内の生活で暇を持て余していた彼は、好奇心に駆られてそれに触れ―――― 「――――気付いたら、あの草原にいたんだ」 そこから先は説明しなくても大丈夫だよね? と、レメディウスと名乗る青年は問う。 ルイズはそれに、大丈夫だと首肯する。 二人はテーブルをはさんだ二つの椅子に座っていた。ルイズは手に、夜食のパンを握っていた。 王立トリステイン魔法学院、女子寮、ルイズの部屋。 そこでルイズは、レメディウスから話しを聞いていた。 「それ、本当?」 ルイズはレメディウスと名乗る青年に尋ねる。 声には多量の疑いが含まれていただろう。なにせ、到底信じられる話しではなかったのだから。 「もちろん。ここで嘘をつく理由が、僕には無いからね」 レメディウスは辟易とした表情で、そう答えた。 呆れたように細められている翡翠色の瞳に、嘘をついているような色は見受けられない。 この表情が演技ならば、彼は素晴らしい舞台俳優だろう。それこそ、自分の専属として雇いたいくらいの。 「悪いけど、信じられないわね」 「そうだろうね。僕だって、未だに信じられないんだし」 「別の世界ってどういうこと?」 「文明がもっと発達してると考えてくれたらいいかな。あと、月は一つしかなかった」 レメディウスが窓の外を指さす。 夜の帳が下りた空には、赤と青、大と小の月が輝いている。 ルイズにとってはいつもと同じ夜空だが、レメディウスにとっては違うようだった。 「月が一つなんて、そんなふざけた世界が何処にあるのよ。まるで御伽噺じゃない」 「僕からしたら、この世界のほうがよっぽど御伽噺さ」 レメディウスはそういうと、ルイズへと視線を戻し、苦笑する。 与太話だ、とルイズは思った。 確かにレメディウスの言葉には真実味があるし、即席で考えた設定とも思えない 。 まるでそういう世界が本当にあるかのようだ。 だが、レメディウスの表情からは、焦りが感じられない。 ルイズがもし異世界にいきなり飛ばされたとしたら、帰りたいと喚くだろう。 レメディウスからはそういう「焦燥」や「不安」といった感情が欠落しているように感じる。 それが、レメディウスの言葉から真実味を欠けさせ、嘘臭くしていた。 「異世界から来たっていう割には、あんた帰りたいとか言わないじゃない」 ルイズは感じていた違和を正そうと、レメディウスを問い詰める。 「本当に異世界から来たっていうなら、もっと焦ったりとかするものじゃないの?」 これでまともな答えが返ってこなかったら嘘だろうと、ルイズは考える。 レメディウスはその問いを聞くと、きょとんとした表情を浮かべ、その後に皮肉気に頬を歪めた。 「それは仕方ないかな。僕は帰りたいと思ってないから」 「はあ? なによそれ」 「説明するのが難しいんだけど………とにかく、元の世界に未練が無いんだ」 会いたい人とかもいないしね、とレメディウスが肩をすくめる。 「あんたにだって、家族とかいるでしょ?」 「いるけど」 「会いたくないの?」 「あの人とは、会えないっていうなら別に会わなくてもいいかなって感じかな」 ルイズはレメディウスの顔に、一瞬だけ不快気な色が浮かんだのを捉えた。 あの人、という他人行儀な言い方から、限りなく他人に近い関係なのかも、とルイズは直感的に思う。 しかも、折り合いが良くなさそうだった。 「まあ、それは良いとして………あんた、本当に別の世界から来たって言い張るの?」 「言い張るも何も、そうとしか思えないんだ」 「じゃあ、なんか証拠ある?」 「証拠?」 「そう、証拠。わたしが納得できそうなモノ」 ルイズがそういうと、答えに窮したようにレメディウスが黙りこむ。 しばらく逡巡したのち、 「困ったな、なにももってない」 と苦笑交じりに言った。 「証拠が無いなら、信じるのは無理だわ」 ルイズがパンをちぎって口へと運び、咀嚼しながら言った。 行儀が悪いが、どうせレメディウスは使い魔なのだから関係ないだろう。 「異世界に行くなんて解ってたら、何かしら持ってきたんだけどね」 何か持っていないかとポケットを探るレメディウス。 しかし、直前まで牢獄に閉じ込められていたレメディウスは、魔杖剣どころか曲がった匙一つ持っていなかった。 「うーん………チェルスなら得意だけど、あれじゃ証拠にはならないだろうなぁ…」 どうしたものかと悩むレメディウスが、ぽつりと漏らす。 「チェルス? なにそれ?」 知らない単語に、ルイズが反応した。 「チェルスって言うのは二人でやる盤上遊戯だよ。八掛ける八の升目のある盤上に、王や騎士の駒を並べて………」 「それって、チェスのことじゃないの?」 「チェス? こっちではそういうのかな? 交互に駒を動かして、王を詰める遊戯なんだけど」 「やっぱりチェスじゃないの。あんた、得意なの?」 「僕の知っているものと同じなら、だけどね。これでも元の世界では強かったんだ」 レメディウスは自信ありげに頷く。 いままで微笑や苦笑しか浮かべていなかったレメディウスが、自慢げな表情を浮かべていた。 「じゃあ、私が相手でも勝てるかしら?」 ルイズはそんなレメディウスを見ながら、言った。 レメディウスはルイズを一瞥すると、即答する。 「勝てるだろうね」 冗談を全く含まない、分析し尽くされたような冷静な声音。 その言葉は刃となって、ルイズの貴族としての矜持を大きく抉った。 「あ、あんた、随分大口叩くじゃない! そんなに自信があるの?」 「まあね。これでも、大陸で一番強いって言われてたこともあるんだ」 ルイズの口の端がひくひくと痙攣していることに、レメディウスは気付いていない。 自慢げな表情で、言葉を紡ぐ。 「君の強さにもよるだろうけど、十中八九勝てるよ。自信がある」 レメディウスが胸を張るのと、ルイズの内側でブチッ! と何かが切れた音がするのは同時だった。 バンッ!! と、ルイズがテーブルに平手を叩きつける。 手の下でパンが潰れて、ナンのようになっていた。 「あ、ああああああんた、いい度胸じゃない! いいわ、わたしに勝ったらあんたの与太話、信じてあげるわよ!」 レメディウスはルイズのその言葉に、きょとんとした表情を浮かべた。 「いいのかい? たぶん、僕が勝ってしまうけれど」 「ええ、いいわよ」 ルイズは椅子を引くと、椅子から飛び降りる。 ベッドわきの机の引き出しを漁り、何かを小脇に抱えて戻ってくる。 「ただしッ!」 バンッ! と、ルイズがテーブルに何かを叩きつけた。 風圧で、テーブルに張り付けられたパンが吹き飛ぶ。レメディウスがそれを受け止め、テーブル上に置いた。 ルイズが持ってきたそれは、ガラスで作られた、美しいチェスの盤面だった。 「あたしにも勝てないようなら、あんた打ち首だから」 レメディウスはその時初めて、ルイズの浮かべる表情に気付いた。 それは、冗談を言っている顔には全く見えなかった。 「ど、努力するよ。打ち首はいやだし………」 レメディウスの背中に冷たいものが伝った。 ルイズの視線には、恐怖を感じさせるセロトニンやノルアドレナリンを分泌させる咒式でも展開しているのだろうか? レメディウスにそう思わせるほど、ルイズの眼光は鋭かった。 「そうね、せいぜいがんばりなさい」 不遜にそういってのけると、ルイズはガラスの盤面に駒を並べ始める。 ルイズの駒が金、レメディウスの駒が銀でできていた。 「じゃあ、規則の確認をしてもいいかな? 僕の知っているチェルスと、規則が違うかもしれない」 レメディウスが銀色の女王を手に取る。 使う駒は似通っているし、駒を並べる順も同じだが、それでも規則の細部が違っている可能性は否めない。 「良いけど。ルールがちがうから負けたなんて言い訳は無しよ?」 「これでも指し手の誇りがある。そんな真似は絶対にしないさ」 「あっそ、ならいいわ。じゃ、駒の動きから確認ね」 ルイズとレメディウスが、駒を一つ一つつまみあげて動きを確認していく。 ルールの確認が終わると、ルイズはレメディウスに先手を打つように言った。 「いいのかい?」 「いいわよ。貴族はそれくらいの余裕があってしかるべきだわ」 「では、お言葉に甘えて」 レメディウスは銀色の駒をつまみあげ、前進させた。 ○ ○ ○ 数時間後、夜も更けた時分。 レメディウスとルイズの二人が、始めた時とほぼ同じ態勢で盤面を囲んでいた。 「狭いところばかり見ていてはいけないよ。広く盤面を見て、可能性を探すことが 大切なんだ」 レメディウスが、盤面を凝視するルイズへと声をかける。 しかしルイズは黙ったまま、しかめ面で盤面を睨みつけていた。 「この部屋の外には外の世界が広がるように、たとえば、世界はこの世界だけではない」 レメディウスが言葉を続ける。 「実は、次元の壁を超える伝達手段が存在する。 これは超紐理論における紐、一次元の長さを持つ存在で、粒子は紐の振動として現れてくるという概念をさらに拡張したものなんだけれど………」 レメディウスの言葉を聞いていないように、ルイズが一手を放つ。 即座にレメディウスによって、最高の一手が返された。 ルイズの可愛らしい眉間に皺が寄る。 数十秒の間、盤面を睨みつけ、やがて一手を打つ。 より厳しい一手がレメディウスによって返され、ルイズが泣きそうな表情になった。 「理論より導かれるP世界とは、P次元として、Pが一なら紐、二なら膜というように任意のPが設定できるなら、 この世界は四次元以上の高次元空間にあるものとして現れてくると推測されている」 考えていたルイズの表情に明るさが戻る。 金色の駒をつまみあげ、自信を持って前進させる。 レメディウスの手が閃き、より厳しい一手を打った。 ルイズの眉間により深いしわが刻まれ、鳶色の瞳が細められた。 「ほとんどの物理力は世界という枠に閉じ込められて、外に出ることは出来ない」 いらいらとルイズの足が、等間隔に床を蹴る。 それを聞きながらレメディウスは、説明を続ける。 「しかし、重力だけは別の世界に影響を及ぼせる。重力の方向に別世界があれば、重力波伝達される」 レメディウスの言葉を無視してルイズは、盤面を指差して残る手を模索する。 対してレメディウスは盤面を見ることをやめ、既に自分の思考に囚われていた。 「別世界にまで影響を及ぼすならば特異点を発生させるようなブラックホール並みの重力波が必要なんだけれど」 そこまで言って、レメディウスの言葉が止まった。 盤面を見て、ルイズへ視線を向ける。 「あ、これは考えても無駄な盤面だよ。あと十三手か十五手のどちらかで、絶対に詰みになるから」 レメディウスの指摘に、ルイズの頬が風船もかくやという程に膨れた。 駒を取ろうとしていた手が止まり、そのまま盤面に乗っている駒を片端から叩き落とす。 「わわ、なんで盤面を壊すのさ!」 「あんたさあ! そんなに強いなら何で最初っから言わないのよ!」 「最初から言ってたじゃないか………」 ルイズの理不尽な物言いに、レメディウスは苦笑する。 床に散らばった駒を拾い集めると、駒を最初の状態に並べ直す。 「それに、なんかあんたブツブツ言ってたけど、あれ何よ。なんかの呪文?」 「呪文じゃないよ。咒式――――僕たちの世界での魔法みたいなものかな? それの基礎になる初歩の理論さ」 「何言ってるか、全然分かんないわ。もっと簡単に言いなさいよ!」 苛立ちと呆れを綯い交ぜにした表情でルイズが言う。 レメディウスが、苦笑の表情を深くしつつ、答えた。 「つまり、世界はここだけじゃない。たくさんあって重なり合い、そこには僕たち以外の誰かがいるかもしれないんだ」 面倒な説明を省いた、結論のみの理論。 それを聞いたルイズの瞳が、胡散臭げにレメディウスを見やった。 「ふぅん…………。じゃあ、あんたはそういう世界のどっかから来たってこと?」 ルイズの言葉に、レメディウスが目を丸くする。 「おや? 信じてくれる気になったのかい?」 「だって、チェスで負けたら信じるって約束だったでしょう? 約束を破るなんて、貴族の恥さらしだわ」 ルイズが悔しそうに、つんと顔をそむける。 可愛らしいその仕草に、レメディウスは柔和な笑いを浮かべた。 嘘が嫌いというか義理がたいというか、要はそういう少女なのだろう。 「それで、いったいどうなの? あんたはそういう世界から来たっていいたいわけ?」 「察しが良いね――――と言いたいところだけど、それは僕にもわからないんだ」 「なによ、違うの?」 自説を否定されたようで、ルイズの顔に不機嫌さが浮かんだ。 レメディウスはそれを見て笑うと、言葉を続ける。 「違うかもしれないし、違わないかもしれない。肯定も否定も、するには情報が足りないんだ」 「なにそれ、はっきりしないわね」 レメディウスの答えに、ルイズは呆れて溜息をついた。 白黒の盤面を睨みつけていたせいだろう、目がちかちかする。 「でも、元来た世界が解ったところで、帰れないわよ? あんたはわたしと契約して、わたしの使い魔になっちゃったんだもの」 そもそも、召喚したものを元に戻す呪文なんてないし、とルイズが付け足す。 レメディウスは人間で、さらに自称異世界人だが、それでも自分がやっと召喚に成功した使い魔だ。 主人である自分をおいて元の世界に帰るなど、ルイズには許せなかった。 「別に帰る気はないからね。帰れなくたっていいさ」 ルイズの言葉に、レメディウスが肩をすくめながら答える。 その顔に浮かんでいる微笑に、ルイズは少し、影があるような気がした。 先程も思ったが、レメディウスは家族と折り合いが悪いらしい。 複雑な事情があるのだろうと、そう思った。 「まあ、あんたがそういうならいいんだけどね」 ルイズは、レメディウスによって綺麗に並べ直された盤面から金の駒を拾い上げ、何気なく指先でもてあそぶ。 「あんたは人間でも使い魔なんだから、使い魔としてしっかり働きなさいよ?」 「もちろん。僕にできることなら何でもするさ」 「人間にできることって、雑用くらいしかないけどね」 「というかそもそも、使い魔というのはいったいどういうことをするんだい?」 そういえば聞いていなかったと、レメディウスが呟く。 幻想文学の類はほとんど読んだことが無かったため、知識に乏しかった。 ルイズは出来の悪い生徒に講釈するように、椅子の上で膝を組んだ。 「使い魔にはまず、主人の目となり耳となる能力が与えられるの」 「言葉から察するに、視覚や聴覚の共有かな?」 「そう。でも、あんたじゃダメみたい。あんたからは何にも見えないし」 それは逆によかったんじゃなかろうかと、青年は思った。 ルイズは不満そうだが、さすがに入浴や用便の時に視覚を共有されるのは気分が悪い。 少女はレメディウスの思考をよそに講釈を続ける。 「次に、使い魔は主人の望む物を見つけてくるの。具体的には秘薬やその材料ね」 「秘薬?」 「硫黄とか、苔とか、そういうものよ。魔法を使うときの触媒にしたりするわ」 「なるほど」 そういう科学的側面も魔法には存在するのか、とレメディウスは感心する。 「最後に、使い魔は主人を守る存在なんだけど………あんたじゃ無理そうね」 ルイズがレメディウスを、値踏みするように見やる。 背は高いが、肉付きは薄く、筋肉質には見えない。 性格も柔和といえば聞こえはいいが、悪く言えば気弱なところがある。戦闘には向かないだろう。 「護身術程度ならなんとかなるけど」 「平民の護身術なんか、メイジ相手にじゃ意味無いわよ」 ちなみにルイズは、レメディウスが子爵家の嫡男――――貴族であるということをすっかり忘れている。 ルイズの脳内では、レメディウスは自称異世界から来た、平民である。 「僕は魔法のことは解らないからなあ………」 「なんか、使えないわね。あんた」 「面目ない」 嘆息しながら、ルイズは指先で弄んでいた女王を盤面に降ろす。 床においていた木箱を開くと、その中に盤面の上の駒を片付け始めた。 駒をしまうための窪みが箱の内側に彫られている。どう見てもチェスの駒をしまう専用のものだった。 「おや、片付けるのかい? もうやらないのかな?」 「あんたねえ………いったい今何時だと思ってるの? 疲れたし、もう寝るわよ」 「それもそうだね。流石に十三回も対局すれば疲れるか」 一度目に完膚なきまでに敗北したルイズは、もう一度よ! とレメディウスに喰ってかかった。 それを繰り返し、最後の対局で十三回目。 繰り返された回数は、ルイズが敗北した回数に比例していた。 「結構、良い指し筋だったよ。十三回もやったのに、一度も同じ手を使わなかったしね」 「だって、同じ手じゃ勝てないでしょ」 「そうだね。ただ、同じ手に見せかけたり、別の手に見せかけたりというのは結構重要で――――うわぁああっ!?」 チェス盤を片付け終えたルイズがいきなり服を脱ぎ出したのを見て、レメディウスが悲鳴をあげる。 白い肌に一気に朱が差し、翡翠色の瞳が凄まじい速度で泳いだ。 「な、なななななんで服を脱いでいるんだい!?」 「なんでって、着替えないと寝れないじゃないの」 「いや、確かにそうなんだけどもね? 一応僕は、男なんだけど」 その言葉に、ルイズが蔑むような眼をレメディウスに向けた。 「使い魔の雄に見られたって、別にどうとも思わないわよ」 「ああ、そう…………」 ルイズの言葉に少し悲しくなりながら、少女の着替えを見ないよう、レメディウスはテーブルに突っ伏す。 しばらくしたのち、その金髪の上に、何かが投げつけられた。 「? なにこ――――――うわぁああっ!!?」 両手で広げたそれは、シルクの布地で造られた三角形。 純白のそれは繊細なレースで美しく装飾され、気品さまで感じられる。 それは、レメディウスの認識が間違っていなければ、ショーツと呼ばれる下着だった。 「それ、明日洗濯しておいてね」 既に寝巻に着替え終わっているルイズが、レメディウスの投げ出した下着を指差して言った。 「………………普通、こういうものの洗濯は女性にたのまないかい?」 「あんた、雑用くらいしかできないんだから雑用しなさいよ」 「了解……」 ルイズはその返事に満足そうに頷くと、自分のベッドに潜り込む。 「僕は何処で寝たら良い? やっぱり外のほうが良いかな?」 流石に女子寮で男が寝るのは良くないだろう。 砂漠のウルムンは、夜は氷点下になることもあった。それに比べればこの気候だ。 外で寝ても、凍えることはないだろう。 「そこ。そこの藁束」 ルイズが、部屋の隅を指差す。 そこには馬小屋などの飼い葉をそのまま持ってきたような藁束があった。 「まさか人が召喚されるとか思ってなかったから」 「なるほど………」 「毛布は貸してあげる」 今度は自分の足元を指差すルイズ。 「では、お言葉に甘えて」 レメディウスはそこにあった毛布を拾い上げて、藁束の上に寝転んだ。 牢獄の固い寝台より、柔らかいだけ上等というものだろう。ちくちくと肌を刺すのが難点といえば難点だが。 そんなことを考えていたら、ルイズがパチンと指を鳴らした。同時に、煌々と部屋を照らしていたランプから光が消える。 魔法とは便利なものだと、レメディウスは改めて感心した。 「明日、朝起こしてね」 「はいはい」 言いつけられる仕事が本当に雑用で、レメディウスは苦笑する。 これでは使い魔というより、従僕という気がした。 「それじゃ、おやすみ」 「おやすみ」 最後に言葉を交わして、会話が途切れた。 レメディウスは、ルイズの寝息が聞こえるのを待っていた。 そしてその寝息が聞こえ始めたところで、レメディウスも瞳を閉じた。 言葉にこそ出さなかったが、ルイズ同様に疲れていたため、眠りに落ちるのは一瞬だった。 前ページ次ページ天才と虚無
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9043.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん 血生臭い匂いと肉片、そしてコボルドの死体が散乱する深夜の川辺に幾つもの小さな影―――生きているコボルド達がうろついていた。 先程まで地上を照らしていた双月が黒雲に覆われた今は、人に原初の恐怖をもたらす闇が支川辺を支配している。 その中で蠢く彼らは焦げたバターの様な色の目玉を光らせ、ギョロリと動かしながら゛何か゛を捜していた。 地面に横たわる同族の死体を避けて動く足には配慮というものがあり、死者に対する敬意があるようにも見える。 もっとも彼らにそれを理解できる程賢く無いかもしれないが、自分たちの仲間゛だった゛モノを踏んではいけないという事は理解しているらしい。 水が流れる清らかな音風で揺れる木々の騒音が合わさり、自然が奏でる音楽にはあまりにも不釣り合いな血祭りが行われた川辺。 その周辺をうろつき回るコボルド達の中でたった一゛匹゛だけ、幾つもある内の一つである゛仲間゛の死体を見つめ続けている者がいた。 死体の損壊は周囲のと比べればかなり酷く、右の手足がないうえに過剰としか言いようがない程に頭まで潰されている。 あまりの惨たらしさに普通なら目を背けるようなものだが、そのコボルドだけはじっと見据え続けていた。 まるでこの死体の無残さを記憶に残そうとしているかのように凝視するその姿から、明確な知性を感じ取れる。 右手には彼らコボルドだけではなく、人間と敵対する亜人たちにとって天敵である人間たちが持つ棒状の゛武器゛と酷似した長い棍棒を握りしめてる。 だが何よりも怖ろしいのは、この場にいる生きているモノ達の中で最も怒っているのが彼だという事だ。 武器を持つ手の力を一切緩める事無く死体を見つめる彼の瞳には、静かな怒りが蓄積されている。 彼の事をよく知る仲間たちは知っていた。怒り狂う彼を怒らせれば、文字通り八つ裂きにされることを。 だからこそ他のコボルド達は声を掛けようともせず、彼の好きなようにさせていた。 何よりもその仲間の死体は彼自身にとって、゛仲間゛という関係では済まない間柄なのだから。 彼が死体を凝視し始めてから何分か経った時、その手に槍を持ったコボルドが二匹ほど森から飛び出してきた。 既に匂いで察知していた川辺のコボルド達は驚くことなく、やってきた二匹に落ち着いて目を向ける。 そんな時であった、今まで死体を見続けていたあのコボルドが顔を上げたのは。 「……斥候たちよ、私がいま欲しい情報を見つけてきたのだろうか?」 親切な喋り方とは裏腹な殺意を含ませた彼の口から出てきた言葉は、驚くことに人間たちの言葉であった。 ややトリステイン訛りの強いガリアの公用語を喋っており、失聴していなければすぐに分かるだろう。 発音もハッキリとしておりうまく姿を隠して喋れば、天敵の人間すら騙すこともできる程だ。 他のコボルドたちは彼の事を知ってか人間の言葉を聞いても驚かず、ジッと彼の姿を凝視している。 斥候である二匹の内一匹がその言葉に応えてか、犬と似たような構造を持つ口に相応しい声を上げた。 ガフガフと肉に食らいつく野犬の様な節操というものが見えぬコボルドの声が、辺りに響き渡る。 彼は彼で仲間の声に耳を傾けていて、時折頷く動作などを見せている。 やがて報告し終えたのか、喋っていたコボルドは口を閉じて一歩前へと下がっる。 彼と一緒に聞いていた他のコボルドたちが、やや騒がしいと思えるくらいにざわつき始めた。 それは決して狼狽えたり動揺しているというポーズではない。むしろその雰囲気から喜ばしい何かさえ感じられる。 まるでこれから食べ放題飲み放題のパーティーへ行けるかのような嬉しさを、コボルドたちは感じていたのだ。 何匹化が嬉しそうに鼻を鳴らし、喜びに打ち震えて犬の鳴き声を口から出す者もいた。 斥候たちも同様で、自分たちの行いが皆の役に立ったと確信して互いに顔を見合わせている。 その中でただ一匹だけ、喜びの感情を見せることなく口を閉ざしている者がいた。 それは斥候が来るまで、見るも無残な死体と化したあの一匹見つめ続けていた人の言葉を喋る彼であった。 仲間たちに知られず棒を持つ右手に更なる力を入れていく彼は、もう一度足元の死体を見やる。 物言わぬ骸と化し、地面に散らばる肉片の一つなった仲間の死体から得られる情報は少ない。 ここで起こったであろう事を知らなければ、ただここで『ひどい虐殺があった』としかわからないのだ。 他の死体も同様に惨く、同族のコボルドでなくとも他の亜人や普通の人間でも絶対に見たくないとその目を硬く閉じてしまうだろう。 そしてこんな危険な場所に長居はできないと、すぐにでもここを離れる準備に取り掛かるに違いない。 自分たちの命を一方的に脅かす道の天敵から、姿をくらますために。 だが、ここにいるコボルド達は違う。 否、正確にいえば彼らを率いるリーダー格には勇気があった。 無法者たちの群れを率いる身として体力と知性を備えており、仲間たちを惹き入れる一種の゛才能゛も持っている。 彼はその゛才能゛を用いて幾つもの戦いを勝利してきた、時に敗北したことはあったがそれは戦い方を学ぶ機会にもなった。 森での暮らしに適し、メイジで無い人間を圧倒する亜人としての凶暴性、そして人並みの知性と人間には真似できない゛才能゛という名の力。 それを駆使して多くの仲間たちと生きてきた彼にとって、今回の惨劇は到底許せるものではなかった。 例えれば必死に考えて練り上げ、長い試行錯誤と挫折を経験した末に描きあげた絵画を遠慮なく切り刻まれた事と同じだ。 だからこそ彼は決意していた。今回の屈辱は、決して安い代償で済ませるつもりはないと。 取り返しのつかない事を起こし、無念を晴らそうと考えている。あの世へと旅立った仲間と――――唯一無二の『家族』の為に。 「明日の昼にその村へ奇襲を掛ける。メイジといえども人間共はそんな時間に来ると警戒していない筈だ」 それまで全員休め、明日はお楽しみだぞ。パーティーの招待状にも近い言葉を人の言葉で呟き、彼は踵を返した。 彼の言葉を聞いたコボルド達は更に喜ぶ様子とは裏腹に、森は静かである。 まるで明日の事を知っ動物たち逃げ出したかのように、息苦しい静寂が周囲一帯を包み込んでいた。 ――――人間共め。弟と仲間の仇として全員血祭りに上げてくれるわ 背後から感じられる楽しげな気配をその身に受けて彼は…、 この群れのリーダーである゛コボルド・シャーマン゛は心の中でそう呟き、二度目の決意を誓った。 赤い服越しに触れる雑草の鬱陶しさと、斬り落とされた左手首から伝わる猛烈な激痛。 痛い、痛いと心の中で叫びながらも必死になって足を動かし、猪の様に森を掻き分けて疾走する。 何処とも知れぬ暗い森の中を走る彼女が感じているのはただそれだけ。 それ故に他の事が一切理解できず、今自分がどこにいるのかさえ知ら ない有様である。 月明かりの届かぬ暗い場所を駆けずり回るが、彼女自身どこへ行こうか、何をしようかという事まで考えていなかった。 ただただ走っているだけで一向にゴールが見えぬランニングを、黒髪の彼女はたった一人で行っていたのだ。 そんな彼女であったが、たった一つだけ頭の片隅に浮かび上がる゛自分の後ろ姿゛だけは、忘れていなかった。 黒い髪に紅白の服。それと別離している白い袖と、生暖かい風に揺れる真っ赤なリボン。 これまで幾度となく鏡の前で見てきた姿が、こんな状況とは関係ないのにも変わらず頭から離れようとしない。 何故?どうして?と考える余裕なと無論無く、彼女は左手から伝わる激痛にただただ泣いていた。 赤みがかった黒目から涙が流れ、こぼれ落ちる無数の滴は彼女が踏みしめ土や掻き分けた雑草に飛び散り誰にも見られぬ染みとなる。 しかし、彼女のランニングは思わぬ形で―――否、いずれはそうなっていたかもしれない終わりを迎える事となった。 一歩前へと踏み出した右足に感じたのは草と土を踏みしめる感触ではなく、不安を募らせる虚ろさ。 まるで足場だと思っていたモノが単なる幻であったかのように、右足だけがその虚ろな何かを踏みつけて沈んでいく。 痛い痛いと心の中で叫んでいた彼女だが、この時だけはあっ…という驚いた様な声が口から出てしまう。 涙を流す両目がカッと見開き、自分が゛足を踏み外した゛という事に気づいた時には、全てが手遅れであった。 暗い森の中を彷徨う左手の無い少女が、崖の下へと落ちていく。 まるでその辺の石ころを拾って投げるように、結構な速度で下にある川の中へと、グルグル回って落ちている。 視界に映る景色が目まぐるしく変わる中…その身が激流の中へと入る直前、彼女はある言葉を叫ぶ。 何も考えられなかった頭の中に浮かんできたその一言を、彼女は思い出したかのように、彼女は叫んだのである。 ただ一言――――――「レイム」と。 その瞬間であった、今まで頭から離れなかった゛自分の後ろ姿゛が、スッと消え去ったのは。 トリステイン、特にラ・ロシェール近辺の気温は朝限定だと言えば、初夏にも関わらず比較的涼しい地域だ。 森林地帯は木々が木陰をうまく遮って涼風を運んでくるために、暑い地域から来る者はその快適さに驚くことは珍しくも無い。 その為か避暑を目当てにここで休息を取る野生動物や野鳥は後を絶たず、周辺の村に住む人たちの糧となっている。 時折熊や狼と言った猛獣や、オーク鬼にコボルド等の亜人たちも足を運ぶために、決して安全な場所とも言い切れない。 人々が開拓する前から続いてきた食物連鎖の輪は、今もなお安定した形を保ち続けていた。 そんな森の中にある一本の川。その近くに生えている大木の根元に腰を下ろす、一風変わった姿をした女性がいた。 異国情緒漂う紅白の衣装に別離した白い袖、そしてその下には水着にも似た黒のアンダーウェアと白いサラシを巻いている。 髪の色はハルケギニアでは珍しい艶のある黒で、腰まで届く長いソレを抱え込むようにして左腕に乗せている。 顔はといえば明らかに美人と言われる形をしているが、この大陸ではお目にかからぬ顔立ちをしている。 極少数だか知っている人間が近くにいたなら、間違いなく「東方の者」と言われていたに違いない。 こんな西の国の端っこにいる謎の美女は、木陰にその身を休ませて一人静かに悩んでいた。 おかしい。何度見たって…どう考えても、色々とおかしい。 朝靄ただよう森の中で一人呟く彼女は改まった様子で、気難しそうに首を傾げる。 もうすぐ昼食を食べたくなるような時間ではあるが、考えすぎでお腹が空いた事すら忘れてしまっている。 一体そこまでして何を悩んでいるのか。それは他人から見れば極々単純であり、本人からしたら非常に重大な事であった。 首をかしげていた女性が仕方ないと言いたげに「ふぅ…」という気の抜けるようなため息を突いた後、下ろしていた腰をゆっくりと上げる。 シャランと揺れる黒髪が木漏れ日に照らされ、周囲で息をひそめる小動物たちにアピールしている。 その髪を持つ本人はそんな事露知らず、近くにある川へ近づくと自分の姿を水面に映す。 緩やかに流れる川が自分の姿を寸分違わずにはっきりと映したところで、彼女は改まったかのように呟いた。 「やっぱり…どう見てもあんなに幼くは無いわよね」 水面に映る彼女の姿は前述した通り、腰まで伸びた黒髪に、紅白の衣装を身に纏う二十代後半の女性だ。 男性を惑わす異性特有の魅力を十分に持ちながらも、狩人の様な相手を射殺してしまうかのような鋭い眼差しを持っている。 スラリと伸びた体は素人目から見てもある程度鍛えられていると分かるが、それにも関わらず女性らしいスリムさも忘れてはいない。 二十代後半は、結婚する時期が早いハルケギニアでは既に「行き遅れ」と判断される年齢だが、 それでも彼女の姿を一目見れば、並大抵の男ならばせめて一声かけようと思ってしまうに違いない。 それ程までに良い容姿を持つ彼女であったが、その顔には苦悩の色が滲み出ている。 このままでいいのか、何か違わないか?そう言いたげな様子は自分の姿を見た時から浮かべていた。 別に自分が美しい事に罪を抱くナルシストでもなく、ましてやもっともっと綺麗に…というような強欲者じゃあない。 では何に悩んでいるのか?それは他の人間には決して理解できず、彼女だけにしか分からぬ゛違和感゛が原因であった。 「でも…そう言っても…私ってこんなに大人っぽかったかしら?」 先程呟いていた「あんなに幼くは無い…」という言葉に、その゛違和感゛を感じている。 確かにこの姿は自分自身だ。しかしそれが本当かどうかと言われれば―――今なら迷ってしまう。 並みの人生を生きる常人ならばまず思わない事だろうが、彼女の場合は違った。 それは、彼女が目を覚ます前にほんの少しだけ見ていた夢の中に原因がある。 その内容はというと、自分が暗い森の中を闇雲に走り回る姿を見ているというモノ。 体中傷だらけで左手は手首から下が無いという、凄惨な姿をしたもう一人の゛自分゛。 そんな゛自分゛と背後から追いかけるようにしてそれを見つめていた彼女の姿は、あまりにも似ていなかった。 体は一回りか二回りも少し小さく、着ている服は違うし履いているのはブーツではなくかなり高めのローファー。 唯一服と別離した白い袖だけが共通部分であったが、それ以外――少なくとも背中から見れば―全く別人だと思ってしまう。 それでも彼女は瞬時に理解したのだ。あぁ、この少女は自分なのだ…と。 しかし目が覚めて一番に目の前の川で自分の姿を見てみれば、いい年をした女の姿が映っていた。 どう見直しても、あんな大きめのリボンが似合う少女ではなかったのである。 「結局…あれは夢だったのかしら?」 川辺から離れた彼女はそう言いつつも、昨日がアレだったからね…と一人呟く。 それはこことは別の川辺。少し時間をかけて歩いた先にある場所での事だ。 記憶を忘れた彼女がそこで目を覚ました時、予期せぬ襲撃者たちが襲い掛かり、見事返り討ちにしたのである。 自分が人間だからという理由で襲い掛かってきた犬頭の妖怪を退治したのは良いものの、その後が大変だった。 何せ自分よりも倍くらいの身長を持つ大女が突如現れたのだから。 しかも情けない事に『あっという間』 に『気を失ってしまった』のか、気づいたら朝になっていて大女の姿は消えていた。 せめて近くにいるならばと思い捜してみようとある気はしたが何処にもおらず、泣き寝入りするしかないという困った状況。 そんな時にふとここで足を休める事にして、今に至っていた。 「あんなおっかないモノ見て気絶したせいで、そんな夢を見ちゃったのかしら?」 「そんな夢って…どんな夢かしら?」 彼女がまたも呟いた瞬間、背後から柔らかい女性の声が聞こえてきた。 まるで綿菓子の様に優しい甘さと、儚さと脆い弱さに包まれた声を聞いたことなどこれまでの彼女には無かった。 一瞬何なのか分からず目を見開いた彼女であったが、ついで背後から土をしっかりと踏みしめる足音が耳に入ってくる。 誰かは知らないが、とりあえずこちらへ近づいてくる。理解したと同時に彼女は立ち上がり、勢いよく振り返った。 まず目に入ってきたのは、自然の要素が密集した土地に不相応過ぎる゛桃色の長髪゛であった。 熟れた桃の様に綺麗で甘い匂いすら漂ってくるようなウェーブのピンクブロンドが、彼女の気を逸らさせようとする。 それには負けず、次に体全体を見回してみると相手が自分と同じ女性なのだと知った。 個人的な水準よりもやや上だと即時に判断できる大きさの胸と、髪以上に不相応で綺麗な…俗に言う貴族らしい身なり。 身体的特徴は置いておくとして、服装からしてこの近辺に住み土地を把握している人間でないのは一目瞭然だ。 あるいはこの近くに別荘を持っている大金持ちなのか?考えようとした彼女はすぐさま首を横に振って目の前の相手に集中しなおす。 だが、貴族らしき女性はその行動に疑問を感じたのか首を傾げてこんな事を言ってきた。 「あら?何か気に障るような事でもしてまったのかしら?」 そうならば謝りますけど…目の前の女性はそう言って、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。 まるで絵本の中のお姫様が浮かべている純粋な表情には、悪意や゛裏゛といった要素が何一つ入っていない。 どうやら心の底からそう思っているらしい。そう思った直後に、自然と身構えていた彼女の体から力が抜けてしまう。 無意識に上がっていた肩が下がり、その顔が自然と苦笑いになっていくのを自覚しながら、彼女は言った。 「いや…何かもう、別に良いわよ」 疑ってた私が馬鹿だったわ。心の中でひとり呟きながら、彼女はため息をついた。 変になってた自分に呆れるかのようなため息を聞きながらも、ピンクブロンドの女性が唐突に名乗る。 「私、カトレアっていうの。本名はあるけど、長いから教えてあげない」 「あぁ、そうなの…よろしくね。私は、わたしは…私―――アレ?」 茶目っ気のある微笑を浮かべるカトレアの自己紹介を聞いた彼女は、とりあえず返事をする。 しかし最後の一言に、自分の名を名乗ろうとしたところで今になって思い出した事があった。 それは一番最初に気にするべきだったことかもしれないが、何故か今の今まで忘れていた事に、遅くも気づいたのである。 「私の名前…何て言うんだっけ?」 怪訝な表情を浮かべる彼女の呟きに、カトレアは言葉を返さない。 しかしその顔に微笑を浮かべつつも首を傾げているので、気にはなっているようだ。 ◆ 今カトレアたちがいる場所から三十分ほど歩いた先に、それなりの村があった。 山間部の集落とは違いしっかりと整備された道と家を見れば、旅人たちはここを町だと思い込むだろう。 しかし規模の大きさから言えばそこは村であり、ここで目立つ建物と言えば教会に村長の家、そして旅人を泊める大きな宿屋だ。 元はここら一帯の土地を収める領主様の別荘だったのだが、近隣にあるタルブ村に新しいのを建てたのである。 結果この館に足を運ばなくなったが、村人たちの相談を受けて宿泊用の施設として再利用する事となった。 二階建ての部屋は客室合わせて二十程度、平民や行商人に旅の貴族までと客層もかなり幅広い。 そんな建物の入り口で、それなりに逞しい体を持つ老人が一人の侍女たちと話をしていた。 「そうかぁ。つまり、貴族様は朝早くに散歩へ行かれたのかぁ」 「申し訳ありません。私たちがもっと一生懸命に止めていれば…」 少し残念そうな口調の老人に、ややふくよかな侍女が頭を下げて謝っている。 彼女の部下であろう後ろの侍女たちも皆不安そうな表情を浮かべてつつも、何故か周囲を忙しなく見回している。 まるでしきりに動く゛何か゛を目だけではなく頭全体を動かしているの様は、何処か挙動不審とも言えた。 彼女たちだけではない。周囲を見渡せば、今日は村全体が何処か落ち着かない雰囲気を醸し出している。 いつもならゆったりとした一日を過ごす村の人々は忙しなく動き回り、侍女たちの様に゛何かを捜して゛いた。 そんな人々をよそに、一人落ち着いている老人は頭を下げる侍女に対し申し訳ないなと思ってしまう。 「いやいや、別に今日中に出るわけじゃあ無いんだろう?それならまた後でもええよ」 だから頭を上げなさい。慰めるような彼の言葉に、先頭の侍女は申し訳なさそうに従う。 「今は村の人たちだけではなく護衛の方々が捜しに行ってますので、もう少しすれば何か報せが入るかと」 「まぁワシもこれから捜しに出かける。何、体の悪い御方だと聞いているからそう遠くには…」 そんな時であった、教会のある方からおじちゃん!と元気そうな女の子の声が二人の耳に入ってきたのは。 侍女たちが何事かと思いそちらへ顔を向けると、声の主である女の子が老人目がけて走ってくるのが見えた。 突然走ってきた女の子に老人は不快とも思わず、その顔に微笑さえ浮かべて少女の頭突きを快く受け入れる。 その顔に満面の笑みを浮かべた女の子は、クッションを殴ったような音とともに老人の体に勢いよく抱き着く。 「おーニナか、もうお医者さんと神父様のお話は済んだかぁ?」 「うん!まだ何にも思い出せないけど、今日は優しい貴族様にニナの事゛こうほー゛してくれるんだよね?」 ニナと呼ばれた少女の言葉に先頭の侍女が首を傾げる。思い出せない?どういうこと? 少女の口から出た言葉に疑問に覚えた直後、ニナが走ってきた方角から初老の男と若い神父が歩いてきた。 「おはようございます。どうやら、朝からかなり大変な事になってるいようですね」 まだここへ派遣されてから間もない新参者という雰囲気を纏わせている神父が、暢気そうに言った。 その一方で何処か無愛想な気配を体から発している初老の男が、肩を竦めながら口を開く。 「持病をお持ちと連れの者から聞いてはいたが、それにしては随分とお騒がしい方だ」 「申し訳ありません。まさかこのような事になってしまうとは…本当に面目ないです!」 「ん?あぁイヤ、別にアンタらの事を馬鹿にしてるワケじゃあないんだよ」 またもや頭を下げた侍女に、初老の男は少し慌てた様子で言葉をつづける。 「最近ここら辺は物騒だと、旅人たちから聞くようになったからなぁ。もし怪我でもして動けないのなら…事は一大事だ」 「あぁ、あの繊細な身体にお怪我など!あの御方にとっては猛毒の花を直接食べるようなものだわ!」 どうしましょうどうしましょう!他の侍女達も慌てふためくのを見て、初老の男は不味い事を行ってしまったと自覚する。 医者としてここへ来てくれた貴族様への心配を兼ねて言ったが、どうやら火に油を注いだようだ…。 この村で唯一の医者である男はやってしまったと思いつつ、バツの悪そうな表情を浮かべた。 「全く、お前さんは若いころから余計な一言が多いんだと何回言えばわかるんだい」 神父やニナと共に男のやり取りを見ていた老人は一人呟き、傍らのニナを連れて何処かへ行こうとする。 ほれ、行くぞニナ。少女を呼ぶ声に神父が気づくと、首を傾げつつ歩き去ろうとする老人に声を掛けた。 「おや、もう家に帰るんですか?これから捜索なされるのならニナちゃんは教会の方に預けたら…」 「気遣いすまんな若い神父さん。ただ、俺としてはこういう場所に慣れてないんだよ。 それに、家に帰る道中で道に迷った貴族様を見つけられるかも知れねぇしな?それなら一石二鳥ってもんだよ」 老人はその言葉と共に再び歩き出し、その後を追うようにしてニナも足を動かして村の外へ向かっていく。 自分たちの方へ快活な笑顔を浮かべ、手を振って去っていくニナの姿を見つめながら神父に、一人の侍女が質問してきた。 「あのぉ、聞きたいことがあるのですが…あの女の子はあのご老人のお孫さんか何かで…?」 唐突な質問に、少し慌てた様子の神父に代わって医者である初老の男が答えた。 「いんや。…あの娘はちょいと特殊な病気に掛かっててな、今はアイツの家で暮らさせてるんだよ。 なぜかは知らんがあの娘あの偏屈者の事を気に入っとるらしくてな。傍から見りゃあ、本当に親子みたいだろ?」 お前さん達が勘違いするのも無理もない。最後に一言述べて、初老の医者は口を閉じた。 最後まで聞いていた侍女たちの内右端にいた地味な印象の子が、恐る恐る次の質問を言う。 「あのぉ~、さっき特殊な病気がどうとか言っていましたが、それは一体…」 「記憶喪失――――心に強いショックを受けて、覚えていた事を忘れてしまう大変な病気」 質問に答えたのは医者ではなく、医学との距離が近いようで遠い若い神父であった。 顔に暗い影を落とし、何とも言えぬ表情を浮かべた彼は、質問をした侍女が唖然とする間にも喋り続ける。 「大分前に…あの老人が森の中で一人倒れている彼女を見つけた時、あの子は名前以外を忘れていました。 自分が何処で生まれ、両親が誰なのか、何故人気のない森で倒れていたのか…それを全く知らぬまま、今も生きています。 それでもあの子は笑顔を浮かべ続けているのです。まるで人に微笑む事が仕事であるかのように…」 そこまで喋って口を閉じた神父は、始祖に祈りを捧げるかのように目を閉じる。 身体から重たい雰囲気を放つその姿に、侍女たちは何も言う事が出来なかった。 ただただため息が口から漏れ出し、周囲の雰囲気に重く冷たい空気を作り出していた。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/5656.html
autolink() ZM/WE13-31 カード名:可愛い担い手 ルイズ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:2500 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《虚無》? 【永】他のあなたの「集中」を持つキャラ1枚につき、このカードのパワーを+500。 N:ねえ、これどう? H:じゃあ、これ着てみるから……て、手伝いなさい レアリティ:C illust. 12/05/10 今日のカード。 集中持ちの数だけパンプされるという、珍しい条件を持つ。 とはいえ1枚でバニラと同等であり、上回るのは2枚目以降と少々心許ない。 自身を並べても相互に強化されないため、投入枚数が多すぎても効果を発揮しきれない部分がある。 応援持ちを入れる余裕がないほどに集中持ちを投入したデッキならば、出番があるかもしれない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1183.html
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど…洗濯ってどこでやればいいの?」 「はい?」 ~奇妙なルイズ 空条徐倫の場合~ シエスタはテーブルクロスを両手で抱えながら、先ほど声をかけてきた女性『空条徐倫』と一緒に洗濯場へと歩いていた。 「ルイズ様が平民を呼び出してしまったと、厨房でも噂になっていましたよ」 「あー、そうなの?」 徐倫は苦笑いしながら、このハルケギニアに召喚された瞬間を思い返した。 『来いッ!プッチ神父!』 加速し続ける時間の中で、父も、友も、自分に求婚してきた男も、皆バラバラに切り裂かれて散っていった。 自分自身の体からも血が流れ出て、体が冷たくなっていくのが分かる。 エンポリオ少年に最後の望みを託し、ほんの一瞬、時間が加速し尽くす直前に、千分の一秒だけでも時間稼ぎをすべく、空条徐倫はプッチ神父の前に立ちはだかった。 そして無惨にも五体をバラバラに切り裂かれ、意識が虚空に消えていったのだ。 (目が覚めたらファンタジーの世界?何の冗談?それとも夢?) 今自分が生きていることに感謝すればいいのか、それとも取り残されたエンポリオを心配すべきなのか。 徐倫の思考は、召喚されてからずっとループし続けていた。 「…夢じゃないのね」 「え?」 「あ。何でもないわよ、こっちの話」 徐倫が空を見上げる、その仕草を見て察したのか、シエスタは話を変えることにした。 「トリスティンは自然に溢れていて、住みよい所ですよ」 「ありがと、確かに空気は美味しいわね」 昨日ルイズから聞いた話では、元の世界に返す魔法なんて存在しないし、使い魔を呼び出すゲートを開く『サモン・サーヴァント』は使い魔が死ななければ唱えられないと言う。 ちょっとだけふて腐れていた徐倫は、シエスタの言葉を短く返した。 徐倫が慣れない洗濯をしている頃、ルイズはキュルケ達と共に授業を受けていた。 疾風のギトーが、相変わらず『風の魔法こそが最強である』と、慢心に満ちた講義をしている。 そこでルイズが手を挙げて質問した。 「先生、質問があります」 「なんだね…君が質問とは珍しいな、まあいい、言ってみたまえ」 「エア・ニードルとエア・カッターでは、どちらが強力なんですか?」 ギトーは、思いがけない質問に数秒ほど考え込むが、生徒達に言い聞かせるように答えた。 「面白い質問だ、いいかね、両方とも風の刃であることには違いないが…」 呪文を詠唱し、小さなつむじ風でノートのページを何枚か宙に浮かせる。 「エア・カッターは風の刃だ、目に見えぬ鋭い刃が、広い範囲に展開される」 ギトーの前後左右にばらまかれたノートがの紙が、空中で切り裂かれる。 「エア・ニードルは密度の高い風の刃を作り、我々メイジの杖を、名だたる魔剣よりも鋭い刃とする」 ギトーは宙に舞う紙切れに杖を当てる、すると紙切れはバリバリッと音を立て、跡形もなく散った。 「このように、どちらが強力か議論しても意味はない、使いどころが違うのだ」 何人かの生徒は納得したように頷くが、ルイズは更に質問した。 「…では、エア・カッターで起こした竜巻に、エア・ニードルを付加することは考えられますか?」 そう言われてギトーは言葉に詰まる。発想はともかく、そんなシチュエーションはなかなか考えられないからだ。 「考え方は悪くはないが、効率が悪い、水の魔法を重ねたウインドウ・アイシクルの方が効率は良いな」 「そうですか…ありがとうございます」 「どこからそんな発想が出てきたのだね?」 「いえ、ちょっと思いついただけです」 「ユニークな使い方を思いつくのは結構だが、その前に魔法を使えるようになって欲しいものだな」 ギトーの言葉に苦笑いするルイズ、魔法云々は仕方がないとしても、まさか魔法衛士隊の隊長に殺されそうになりましたとは言えない。 (スタープラチナはエア・カッターでは傷つかないけど、エア・ニードルなら傷つく…)ルイズ苦笑いしつつも、自分の『スタープラチナ』の能力を分析していた。 しばらくすると授業終了の鐘が鳴り、本日の授業が終わった。 「ルイズ、あんた明日はどうするの」 キュルケが声をかける、明日といえば虚無の曜日だ。 「明日?」 「あんたの使い魔、服とか買ってあげなきゃいけないんでしょ?」 「あ、そっか」 「それにしてもルイズには驚かされるわ、やっと召喚したと思ったら平民を召喚するなんて、始祖ブリミルもビックリよ!」 「うっさいわね!」 思わず声を荒げるルイズ。 やっとの事で召喚したのが平民、しかも女性。 中庭で召喚してしまったため当日のうちに全校生徒に知られてしまった。 しかも、コルベール先生も召喚の瞬間を目撃していたので、言い逃れも出来なかった。 コントラクト・サーヴァントを余儀なくされ、ファーストキスは同姓に…思い出す度にブルーになる。 「怒らないでよ、明日はタバサが町に用事があるって言うから、シルフィードに乗せて貰いましょ」 ルイズは悩んだ、シルフィードに乗せて貰うのは嬉しい、しかし他人の使い魔に乗せて貰うのは癪だ。 メイジの実力を見るには使い魔を見ろと言われるが、平民を召喚した自分と、風竜を呼び出したタバサの実力差を見せつけられてしまう。 と、考えたところで、タバサの用事というのが気になった。 タバサは読書の虫と言われる程、読書が好きで本を手放さない、休日は部屋に引きこもって印象がある。 「タバサの用事って何かしら」 「入荷日って言ってたけど」 「何の?」 「さあ」 明日になれば分かるだろうと、キュルケが話を切り上げて食堂に向かった。 ルイズは徐倫を呼びに部屋に戻ると、徐倫が取り込んだ洗濯物を畳んでいるところだった。 「徐倫!夕食の時間よ、あんたも食堂までついて来なさい」 やれやれと言いたげな表情で、徐倫がルイズの後をついて行く。 ルイズ達が食堂に着くと、奥の給仕口からシエスタが顔を出すのが見えた。 「ルイズ様、徐倫様の分もお食事を準備させて頂きますが、皆様と同じものでよろしいのでしょうか」 シエスタに徐倫を紹介しようとしたところで、逆にシエスタから声をかけられ、ルイズは驚いた。 「あー、悪いけどこんな豪勢なの食べられないわ、厨房でまかないの料理でも分けて貰える?」 「それでよろしいんですか?では徐倫様、こちらへどうぞ」 「ありがと、あ、さっきも言ったけど徐倫で良いわよ、様なんて付けられるのは苦手なの」 シエスタと徐倫が普通に会話しているのを見て拍子抜けするルイズ、そこで思わず徐倫の肩を掴んでしまった。 「ちょっ、ちょっと待ちなさい、何私を置いて話を進めてるのよ、って言うか何でシエスタが徐倫の事知ってるの?」 昨日と今朝は厨房から分けて貰ったパン(日持ちする固い奴)を徐倫に渡しただけで、徐倫を食堂には連れて行っていない、シエスタとは面識がないはずだ。 「洗濯場はどこかと聞かれたんです」 シエスタが笑顔で言う。 「あ、そ、そうなの、それじゃ徐倫はまかないを分けて貰いなさいよ」 「そうさせて貰うわ」 ルイズの想像では ルイズ『使い魔とはいえ人間に餌を食わせるわけにはいかないわ、一人分の料理を追加して頂戴』 徐倫『ルイズ…田舎から出てきた私をそこまで気遣ってくれるの?』 シエスタ『わあ、ルイズ様は貴族の鏡でいらっしゃいます!』 …と、なるはずだったのだ。 「ではルイズ様、食事が終わる頃、こちらに徐倫様をお連れします」 有能かつ気の利くご主人ざまを演出しようと、穴だらけの計略を用いたルイズは、肩を落としてため息をつきつつ、手招きするキュルケの元へと歩いていった。 「ルイズ様…疲れてるんでしょうか…」 「くだらないことでも考えてたんじゃないの」 「まあ」 シエスタは、徐倫のぶっきらぼうな態度に驚いた。 閑話休題。 食事を終えると、徐倫がシエスタに連れられてルイズの元へとやってくる。 ルイズの近くに座っているのは、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、平たく言えばいつものメンバーだ。 「やあ凛々しいお嬢さん、ルイズに召喚されたとは災難だね」 「災難よ」 徐倫はギーシュの言葉に素っ気ない返事を返した、ルイズはそれが気に入らないのか、少し唇を尖らせると。 「あんたねえ、使い魔なんだからもうちょっと使い魔らしい事言いなさいよ、例えば…」 「『ゼロのルイズに召喚されて光栄です』」 「そうそう、ゼロの…ってちょっと待ちなさいよ今言ったの誰!?」 どこからか聞こえてきた声が、自分を侮辱する内容だったので、ルイズは立ち上がって周囲を見た。 別のグループがルイズ達を嘲笑の目で見ながら、食堂を出て行った。 おそらく彼らが言ったのだろう。 「…あー、そういえば聞きたかったんだけど、さっきから何度か『ゼロの使い魔』って言われるのよね、ゼロって何?あだ名?」 徐倫の何気ない質問に全員が固まる、ルイズは一瞬の硬直の後、ハァーとため息をついた。 「ま、ここで話すのもなんだから、皆でルイズの部屋に行きましょう、アフターディナーティーも悪くないわ」 キュルケが提案すると、ルイズ以外の皆が頷いた。 「ちょっと待ちなさいよ、なんで私の部屋なの」 「だって貴方、授業に出てたんだから、その使い魔さんにトリスティンのことを何も教えてないでしょ?」 「そりゃそうだけど…」 ワゴンを押して食器を片づけていたシエスタが「後ほどお菓子をお持ちします」と言ったのをきっかけに、皆はルイズの部屋へと歩き始めた。。 途中、空に見える二つの月を見て、徐倫は考える。 プッチ神父はどうなったのだろうか、この世界は神父が望んだ世界なのか? エンポリオは?アナスイは?エルメェスは?そして…父は… 「徐倫、何してるの、行くわよ」 「はいはい、ご主人様」 考えても仕方がない。今はとにかくこの世界の情報収集に努めようと頭を切り換えて、徐倫はルイズの後をついて行った。 目次
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3045.html
前ページ次ページゼロの誓約者 突然、目の前が暗くなった。 (たすけて) 聞こえる、いつかと同じセリフ。そして、吸い込まれる様な懐かしい感覚。 誰かに喚ばれたのだと、気がついたのは目の前に少女を認識した時だった。 少女は整った顔を歪め、不満そうに言葉を紡ぐ。 「感謝しなさいよ!貴族にこんな事されるなんて一生ないことなんだから!」 「え……ちょっと」 少年の目の前で、少女は不可解な言葉を発する。少年が、それを少女の名前だと認識することは出来ない。 少年の疑問は、不自然に遮られた。少女の唇が少年のそれを塞いだのだ。 「え、ええええええええええええええええええええええ!?!?」 初めて召喚された時は、周りに多数の死体があった。それはもう驚いた。そして、二回目の召喚も別のベクトルで少年を驚愕させた。 少年の名は、新堂勇人。 前回喚ばれた場所では、誓約者(リンカー)として世界を救った英雄である。が、その後はただのニートと化していた。これは、働けとエルゴが課した試練なのかもしれない。 いつのまにか、右手には妙な模様がきざまれていた。 「で、あんた誰」 ルイズは機嫌が悪かった。初めて魔法が成功した。進級できる。それは嬉しい。だが、それを差し引いてもルイズの気分が良くなるはずはなかった。 喚びだしたのは見たところただの平民。しかもルイズとそう年も変わらない少年。何の取り柄もなさそうだ。少年がぼんやりしている間に、殆どの人々は自室へと戻っていった。ルイズに、嘲笑の言葉を残して。 今回こそ、見返してやろうと思ったのに。寝る間も削って練習した。しかし、結果はこれだ。 投げかけられる言葉に、ルイズは反論のひとつも出来なかった。 「俺は、新堂勇人…ここは?」 「ここはトリスタイン魔法学院。で、あんたは私に、」 「俺は召喚されたのか…?」 え、とルイズはハヤトの言葉に声を上げた。 「君が俺を喚んだ召喚師?」 「そ、そうよ!平民のくせに物わかりが良いじゃない。さあ、行くわよ!」 ルイズは、何故か気まずさを感じて自室へと足を進める。 なんなの、あの使い魔。ルイズが説明しなくても、あの状況を理解していた。平民のくせに、何か引っかかる。……考えすぎよね。 ルイズは思考を振り払う。そういえば、まだ使い魔に名乗っていなかった。振り返ると、ハヤトはさっきの場所から動いていなかった。ルイズはハヤトを呼ぶために、口を大きく開いた。 ハヤトは離れていく少女を眺めつつ、自分の力を試してみることにした。 他の世界に呼びかける。しかし、反応はない。いや、まったくないとは言えないが微かなものだ。他の世界に干渉するには、なにかしら媒介が必要かも知れない。 誓約者は、自由に他の世界から召喚獣を呼び出せるはずなのにここではそれが出来ない。少なくとも、ハヤトの力だけでは。何か、ラッキーアイテムがあれば……。 ふと、ハヤトの目に、怪しい輝きを持った石ころが目に入った。 (これは、) ハヤトは、不思議な力を感じて石ころを手にとった。 「ハヤト!なにしてんのよ、早く来なさい!」 向こうで少女が読んでいる。まだ名前はしらない。召喚獣は召喚師に逆らえない。普段はルイズの立場にいるハヤトはよく知っている。 (でも、必ず前の世界に戻ってみせる) 元の、ではない。ハヤトは、初めて召喚された地で生きていく事を決めたのだから。 ハヤトは、確かな決意を抱いて少女の元へ向かった。 前ページ次ページゼロの誓約者